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  <title>mameruku.gejigeji</title>
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  <description>ガラスの仮面　二次創作</description>
  <lastBuildDate>Tue, 20 Nov 2012 16:55:44 GMT</lastBuildDate>
  <language>ja</language>
  <copyright>© Ninja Tools Inc.</copyright>
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    <item>
    <title>愛おしく</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
<br />
<br />
誰もいない公園は、一人でぼんやりと考え事をするのに向いている。<br />
<br />
ブランコなんてあると、なおさらちょうどいい。<br />
<br />
忙しくて後回しにして考えることができなかった事を、思い出すことも出来る。<br />
<br />
学校の帰りにちょっと寄り道すると、遊びを終えて子供たちが帰っていくぐらいの時間帯なのでちょっとした貸切状態になる。<br />
<br />
<br />
「&hellip;うーん。ちょっと&hellip;ほんとちょっとだけだけど、疲れたなぁ&hellip;」<br />
<br />
マヤがゆっくり前後に漕ぐたびに、ブランコの連結部が軋んだ音を立て、静かな公園にぎいい、きい、と哀しげに響き渡る。<br />
<br />
それがなおさらにセンチな気分を心の奥底からじわりと湧き出させるようだ。マヤは切なさにまかせて暮れかけの曇り空を仰いだ。<br />
<br />
<br />
母さん、どうしてるかな&hellip;元気に、しているかな&hellip;<br />
<br />
「ああ、会いたいな&hellip;」<br />
<br />
「ほう？誰にだ？」<br />
「ひゃあっ？」<br />
<br />
「なんだ、珍しくしおらしげだと思って声をかけてみたら、その大声、いつもと同じだったか」<br />
<br />
「なっ、なんなんですかっ、急に現れないで下さい。心臓に悪い！」<br />
<br />
ブランコから跳ねるように立ち上がったマヤは、後ろに立っている男を苦虫を噛み潰したような顔で振り返った。<br />
<br />
「表情まで一変したな」<br />
「そりゃあ一番会いたくなかった人に会っちゃったからに決まってるでしょうっ、速水さんみたいな忙しい人がこんなところで何してるんですかっ？」<br />
<br />
「ああ、車で脇を通りがかったら、君が死にそうな顔でブランコに乗っているから、何が起きたのかと思ったんだ」<br />
<br />
「で、その珍しい事態をわざわざ見物に来たってわけですか。つくづく悪趣味な人ですねっ」<br />
<br />
「まあ、そんなところだ」<br />
<br />
「（むっか～～っ！）あたし、見世物じゃないですからっ！もう帰りますっ」<br />
<br />
「ああ、元気ならそれでいい。じゃあな、ちびちゃん」<br />
<br />
クックと笑う真澄を不愉快に思いながら、ずんずんと公園の入り口まで歩いて来て、マヤはぴたっと立ちどまった。<br />
背の低い植込みの間、なにか茶色い小さなかたまりが動いているのが見えた。なんだろう？と近づいてみると、それはまだ羽の生え揃わない、小さくて頼りない羽をばたつかせている雛鳥だった。<br />
<br />
「なんだ、ちびちゃん、どうした&hellip;うん？それは&hellip;」<br />
<br />
「う、うわっ、うわあ&hellip;すっごくかわいい！子スズメだ～」<br />
<br />
「拾うんじゃないぞ。そのままにしておくんだ」<br />
<br />
「ひどい！速水さん、冷たいんですねっ、助けない気なんですか！」<br />
<br />
「やめておけ、ちびちゃん。拾ってどうする気だ？」<br />
<br />
「もちろん、保護して面倒を見ます、いけませんか？」<br />
<br />
「君に世話ができるとは思えない。元の場所に戻しておいたほうがいい」<br />
<br />
「そんなこと言ったって！まわりに親鳥もいないみたいだし、戻したら衰弱して死んじゃうか野良犬に食べられちゃうじゃない！速水さんってやっぱり冷血漢なんですねっ」<br />
<br />
どちらにしても&hellip;と言いかけて、真澄は口をつぐんだ。<br />
そんな真澄を気にもとめず、マヤはにこにこと手のひらの中の小さな生き物を見つめ愛おしんだ。<br />
<br />
「うふっ、かわいいなぁ。ん、そうだ、まずは名前をつけなくちゃ。ええと、すずめだからスズちゃんがいいかな」<br />
<br />
「ぷっ、センスがないな。そのままじゃないか」<br />
<br />
「むっ、じゃあ、速水さんだったらなんて名前つけるんですか？」<br />
<br />
「俺がつけるなら&hellip;」<br />
<br />
ふむ、と顎に手をやり、雀を見る。<br />
雀はマヤの両手に体を包みこまれて、居住まいを探るようにモゾモゾと動いている。<br />
観念したのかそれとも安全だと理解しているのか暴れて逃げるようなそぶりはない。<br />
<br />
&hellip;この雀は、違うんだな。<br />
<br />
真澄は知らず、遠く幼い記憶を、マヤと雀に重ね合わせていた。<br />
<br />
「速水さん？どうしたんです？」<br />
<br />
「&hellip;む？あ、いや&hellip;なんでもない。少し&hellip;思い出したことがあっただけだ」<br />
<br />
「なぁんだ、スズちゃんの名前を考えこんでいたわけじゃなかったんですね。どんな名前つけようとしているのか楽しみにしていたのに！」<br />
<br />
だって、速水さんが小さな鳥に名前をつけるなんて、似合わなさ過ぎておっかしい～！<br />
すっごく可愛い名前だったり、すっごく剛胆な名前だったりしたりしたら、もう当分の間思い出し笑いをして過ごせそうだもん～！<br />
<br />
にやにやしているマヤを、真澄はやれやれといった顔で見やった。<br />
<br />
「さてはちびちゃん、聞いてつまらん名前だとけなすつもりだったな？スズちゃんでいいんじゃないか、もう定着しているようだし」<br />
<br />
「あっ、駄目ですっそうやって誤魔化す気でしょう、ちゃんと考えてください！けなしたりなんか、しませんから！」<br />
<br />
「嫌だね。俺は、そんな小さい生き物に名前をつけるのは好きじゃない。君も名前なんてつけて必要以上に感情移入しないほうがいいぞ」<br />
<br />
「やっぱり、速水さんって冷たい人っ！いいんです！私が大事に育てて、絶対、元気に空にかえすもの！」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;まあ、忠告はしたからな。それなら君が無事に育てている様子を逐一俺に知らせるようにしてくれ」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;はっ？なんでそんなことしなくちゃいけないんです？！」<br />
<br />
「インコや文鳥を飼うのとは話がちがうんだぞ。そいつは野鳥で、人間が関わっていいことなんか一つも無いんだ。それでも世話をするというのなら、それなりの知識がいる。君がそれを知っているとは思えんからな」<br />
<br />
「は、速水さんこそ、小鳥の世話の仕方なんて知らないくせに！嫌ですよ、逐一なんて！」<br />
<br />
「なら困ったことが起きた時でもいい。ちびちゃんよりは、よっぽどそいつの役にはたてると思うぞ？」<br />
<br />
「いいいいいいーーーーっだっ。ぜーーーったい、速水さんなんかに頼みませんからーーっ」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「は&hellip;&hellip;はやみさん&hellip;&hellip;」<br />
<br />
疲労困憊、めろんめろんのへとへとになって、マヤが小箱を抱えて社長室を訪れる。<br />
<br />
「こ、これって、どうしてあげたらいいんでしょう&hellip;？」<br />
<br />
どうやってもご飯を食べてくれなくなったというSOSは、もう何度目か。<br />
<br />
それでも、真澄は時間の都合がつく限り、マヤに救いの手を差し伸べてくれたのだった。<br />
<br />
餌の作り方から餌をやるための器具、食べさせてやらなければならないものを細やかに教えてくれ、マヤはすっかり頼るようになり、スズに何かあるとすぐに真澄のもとに飛んでいくようになった。<br />
<br />
「練り餌の温度が低いんじゃないか？最初に教えた時に、ぬるま湯でやるように教えたろう？」<br />
<br />
「そ、そっか、これじゃちょっと温度が低すぎたのかな」<br />
<br />
「それと、親鳥が鳴く真似をしてみるといい。ある程度大きくなっているようだから、もしかしたら簡単に口をあけるかもしれんぞ」<br />
<br />
マヤがチチチッ、と舌を鳴らしてくちばしの先に練り餌を持っていくと、じぇいじぇいと鳴きながらちょうだいとばかりに大きく口をあけてねだったのだった。<br />
<br />
「うわ、すごい！わあ、すごい食欲！速水さん、いったいどうして、そんなに詳しいんですか？」<br />
<br />
「そりゃあ、君より年を重ねている分知っていることも多いんだろ」<br />
<br />
「だって、学校の先生に聞いても、まわりの誰に聞いても分からないって言われたのに&hellip;&hellip;もしかして、速水さんもスズメの雛を拾ったことがあったんですか？」<br />
<br />
「ああ、今の君の年齢よりも、ずっと小さいころにな」<br />
<br />
「そうだったんだ！なんだ、だったら最初からそう言って下さったらよかったのに！」<br />
<br />
「その経験があるから、拾う気にはなれなかったんだ」<br />
<br />
「それって、どういうことですか？もしかして&hellip;&hellip;」<br />
<br />
「ああ、野生に住んでいる生き物は、人間を恐れて保護しただけでストレスになるからな、耐えられなかったんだろう」<br />
<br />
「そっか、そうだったんですね&hellip;&hellip;」<br />
<br />
「まあ、君は野生に近いからな、スズも仲間だと思ってるのかもしれんな」<br />
<br />
「むっ、失礼な！速水さんこそ、そんな冷血人間だから鳥も怯えきってしまったんじゃないんですか？」<br />
<br />
「ああ、そうだろうな。可哀相な事をしたよ」<br />
<br />
「あ、っ&hellip;ごめんなさい、あ、あたし、言い過ぎてしまって&hellip;」<br />
<br />
「いいんだ、ちびちゃん。そのとおりだからな」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
幼いころに真澄が拾った雛鳥は、マヤが拾ったものより少しだけ小さかった。<br />
<br />
保護者になった自分が誇らしく思えた。雛鳥を救ってやれたのだとそのときは思った。<br />
<br />
子供の自分には、知識もなく、ただ、純粋に餌を与えて世話をすれば元気に育つのだと思っていたのだ。<br />
<br />
けれども、雛鳥は自分に懐くことは無く、こちらの姿を見るといつも狂ったように暴れて逃げようとした。<br />
<br />
手を出せば、指先を小さいながらも力いっぱい噛み付いてくるから、満足に餌も食べさせてやれなかった。<br />
<br />
「こら！暴れるなよ！おまえ、ごはんを食べないと、大きくなれないんだぞ」<br />
<br />
無理に掴んでその口に練った餌をこじ入れようとしても、少しもうまくいかない。<br />
<br />
気持ちが、通じ合うことは、一度たりともなかったのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
困り果て、それでも頼る人もいないまま、時間は過ぎていく。<br />
<br />
雛鳥は、次第に元気をなくしていき、抵抗する力も弱々しいものになっていった。<br />
<br />
<br />
<br />
拾ってから二日ほど経った夜に、真澄は夢を見た。<br />
雛鳥のために大きな鳥かごを作っている夢だ。<br />
<br />
<br />
<br />
とりかごを、もっと大きくしなくちゃ。<br />
<br />
元気に飛べるようになる練習ができるように。<br />
<br />
蔦を組んで、めの荒いざっぱらな鳥かごを作る、そんな夢を見た、翌朝のことだった。<br />
<br />
<br />
いつものように箱の中を覗くと、雛鳥はがくがくと小刻みに身体を痙攣させていた。<br />
<br />
驚いて手のひらにその体をそっと乗せると、少しの重さもなくて、さらにその体から、くたりと力が抜けていくのが分かった。<br />
<br />
その瞳が、だんだんと力なく虚ろいで、焦点の合わない、ガラスのような「物質」」になっていく様を、真澄は自分の手のひらの上で見届けなければならなかった。<br />
<br />
「ねぇ&hellip;&hellip;しっかりしてよ、こっち、見て&hellip;&hellip;」<br />
<br />
昨日までと変わらず柔らかな羽根を、撫でて、さすってやってもまばたきひとつもしない。<br />
それどころか、まだ生きたかったと切望しているようにその瞳は開かれたままだ。<br />
<br />
「嫌だよ&hellip;そんなの、嫌だ&hellip;&hellip;！」<br />
<br />
目が、あいてるのに。<br />
<br />
まだ、生きていたいって、いってるのに&hellip;&hellip;！<br />
<br />
体だって、生きてる時と何も変わらないじゃないか！<br />
<br />
なのに&hellip;どうして、動かないの？<br />
<br />
どうして、僕の手の中でこの身体は固くなっていくんだよ&hellip;&hellip;<br />
<br />
<br />
なにもしてやることもできず、生きている形跡さえも無くなってしまった雛鳥の体を、手のひらに包み込んだまま、真澄は声を上げて泣いた。<br />
<br />
<br />
いかないで&hellip;&hellip;<br />
<br />
ここに、戻ってきて<br />
<br />
<br />
お願いだから！<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
悲しみの淵で、真澄は夢の事を思い出す。<br />
<br />
<br />
とりかごを、大きくしなくちゃ。<br />
<br />
元気に飛んでいく練習ができるように。<br />
<br />
そう思って背の高い籠の中に雛鳥を離すけれども、編みこんでいる蔦が、気が付けばあちこちすきまだらけで、直しても直しても、そこから雛鳥は逃げてしまいそうになる。<br />
<br />
そのたびに、慌ててそのすきまをふさいでは閉じ込めるけれど、幾度かそれを繰り返した後でとうとう雛鳥は羽ばたきそこから飛び去ってしまったのだった。<br />
<br />
いかないで。<br />
<br />
ここで、僕が、君を大切に、大切に守ってあげるから。<br />
<br />
何も怖い事なんて、ないから。<br />
<br />
<br />
そう言って見上げるけれど、逃げていくその姿はもうすっかり大人の鳥で、もう雛鳥などではなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
僕は、なんて馬鹿だったんだろう。<br />
<br />
君は、僕に世話なんてされたくなかったのに。<br />
<br />
僕の作る檻から逃げて、生きたかっただけだったのに。<br />
<br />
<br />
ごめん、ごめんね&hellip;&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
一か月後、マヤはスズをつれて、拾った公園に立っていた。隣には真澄の姿もある。<br />
<br />
「さ、飛んでおゆき」<br />
<br />
マヤが箱の蓋をあけると、スズはきょときょとあたりを見回していたが、やがてそこから一気に空へと飛び立ったのだった。<br />
そうしてひとしきり空を気持ちよさげに飛び回ると、近くの電線にとまってこちらを眺めているように見えた。<br />
<br />
「よかった！あの様子なら、きっと、大丈夫ですよね！元気に自然の中で暮らしていけますよね！」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;そうだな」<br />
<br />
真澄を振り仰いで何気なく顔を見たマヤはどきりとした。<br />
<br />
「え？&hellip;&hellip;は、速水さん？」<br />
<br />
う、嘘っ&hellip;&hellip;目が少し、潤んでるみたいな？<br />
<br />
「ああ、ちゃんと、飛んで行けたみたいだな」<br />
<br />
「え、ええ&hellip;&hellip;」<br />
<br />
信じられないものを見たという思いで、マヤはもうスズよりも真澄から目が離せなくなっていた。<br />
<br />
「よかったな、ちびちゃん」<br />
<br />
思いもかけぬ見たことのない真澄の笑顔に、マヤは締め付けられるような胸の苦しさを感じた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;はい&hellip;」<br />
<br />
慈愛が溢れるような、優しい笑顔だった。<br />
スズが無事に飛び立ったことを、もしかしたら私以上に喜んでいるのかもしれない。<br />
それは、スズのためでも&hellip;&hellip;私のためでもあるに違いない。<br />
<br />
ああ、そんな顔で、笑えるんだ。<br />
<br />
&hellip;&hellip;速水さんは、冷血漢なんかじゃないのかもしれない。<br />
<br />
<br />
「速水さん」<br />
<br />
「なんだ？」<br />
<br />
マヤは真澄の右手を取り、両手でぎゅっと握った。<br />
<br />
「ありがとうございました！私だけじゃ、スズを空にかえしてあげることはできなかったと思うんです」<br />
<br />
「そんなことはないだろう。君が世話をしたから出来たことだ」<br />
<br />
「いいえ！速水さんのおかげです。やっぱり何年もわたしより年を重ねているだけありますよね！」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;まあな」<br />
<br />
「あれ？そこはいつもだったら、年寄りだからって馬鹿にするなって怒るところですよ」<br />
<br />
「そうだったか？確かに、君より年をくっててよかったと思ったのは今日が初めてかもしれんな」<br />
<br />
「ええっ！？なんか、素直な速水さんって&hellip;&hellip;気持ちが悪い！」<br />
<br />
「気持ちが悪いは酷いんじゃないか？」<br />
<br />
あはははは&hellip;&hellip;と笑い出しながら、マヤと真澄は暖かな公園の風をスズと共に心地よく感じていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
]]>
    </description>
    <category>社長と高校生</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E7%A4%BE%E9%95%B7%E3%81%A8%E9%AB%98%E6%A0%A1%E7%94%9F/%E6%84%9B%E3%81%8A%E3%81%97%E3%81%8F</link>
    <pubDate>Sat, 04 Feb 2012 04:53:30 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>優しく</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	このときのために生まれたかのような人だよね&hellip;<br />
	<br />
	パーティの会場で、マヤは仕立てのよいスーツに身を包んだ真澄を遠巻きに見ていた。<br />
	煌びやかな人間の周りには、煌びやかな人達が集まってくるものだ。<br />
	<br />
	やっぱり別世界みたい、あの人達の輪に加わることはない私からするとものすごく輝いて見える&hellip;<br />
	<br />
	マヤが声をかけるでもなくぼんやりと、真澄を眺めていると。</p>
<p>
	「好きなの？」</p>
<p>
	唐突に誰かか囁いた言葉に驚いて、顔をあげる。</p>
<p>
	「&hellip;はっ？！！は、はあぃい？！な、何、言ってるんです？！わ、わたし、あんな人なんて、なんとも&hellip;」<br />
	「さっきから、僕の事みてたろ、僕みたいなのが、好みなのかな」<br />
	<br />
	「えっ？」<br />
	<br />
	ニコニコと人好きのする笑みを浮かべた男性が、マヤを覗き込んでいる。</p>
<p>
	あ、ああ、なんだ&hellip;勘違いしてた&hellip;てっきり、速水さんのことかと&hellip;<br />
	それにしてもその台詞、すごいナルシストっぽい&hellip;</p>
<p>
	「ね、このあと、一緒に抜け出さない？」</p>
<p>
	「え、えーと、あ、あの&hellip;」</p>
<p>
	「少し、二人で話がしてみたいだけ、ね、行こう」</p>
<p>
	強引な誘いを断りきれず、促がされるまま手を引かれかけていたその時。</p>
<p>
	「やあ、ちびちゃん」<br />
	<br />
	人の間を優雅にすり抜けて、マヤの前に立ちはだかる。</p>
<p>
	「似合っているじゃないか、そのドレス」</p>
<p>
	誰だか確認しなくてもわかる。この声、このタイミング。</p>
<p>
	けっこう離れた所にいたはずなのに&hellip;いつの間にか不敵な笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってくるのは。</p>
<p>
	目の前にいた男がちっと舌打ちをして即座に退散する程の威力を持つ人といったら&hellip;アノ人しかいない。</p>
<p>
	マヤはぷくりと頬を膨らませた。</p>
<p>
	「い、今っ！せっかく、誘ってもらってたのに！速水さんのせいで台無し&hellip;！」</p>
<p>
	「あの男は、浮いた話が多い」</p>
<p>
	真澄はぶっきらぼうにそう言うと、明らかにムスッとしてそっぽを向いた。<br />
	マヤの腕を掴むと、そのまま前を向いて足を速める。</p>
<p>
	「え&hellip;えと」</p>
<p>
	気にかけてくれているのかと、淡い期待が胸を占める。<br />
	悪い男にひっかりそうな自分を心配してくれてる&hellip;？速水さんが？</p>
<p>
	「あ、あの、それって&hellip;どういう&hellip;」</p>
<p>
	繋がれた手を意識しながら、マヤは口ごもる。</p>
<p>
	もしかして&hellip;嫉妬、とか？</p>
<p>
	「旬な綺麗どころとばかり噂になる男だ、ちびちゃんなんかを本気で相手にする訳がないだろう」</p>
<p>
	期待はあっさり打ち砕かれる。カッと頭に血が上ったマヤは、目をむいて即座にくってかかった。</p>
<p>
	「趣向が変わったのかもしれないじゃないですか！そ、それに、私だって、い、今が旬ですから&hellip;！」</p>
<p>
	自分で言っていて虚しくなる。でも紅天女という大役を手にした自分は、話題の最先端に存在している事は間違いない。おかしな事は言っていないはずだから！笑われてるけど&hellip;！堂々としていればいいんだ、顔、熱いから赤くなってるだろうけど気にしちゃダメ&hellip;つ、強気で、今日は強気で速水さんになんとかぎゃふんと言わせてやるんだから！<br />
	腹立ちまぎれに真澄の手を振り払おうと、ぶんぶんと腕を振り回してみるが、がっちりと繋がれていてどうにも離れない。</p>
<p>
	「～～～～っどうして邪魔したんです？！私&hellip;ああいう華やかな人とお付き合いしてみたかったのに！」</p>
<p>
	「華やか&hellip;ね」</p>
<p>
	「そうです！私だって、カッコよくて優しそうな人にエスコートされてみたいのに！」</p>
<p>
	「優しそう？」</p>
<p>
	「そうです！意地悪ばかり言う人に邪魔されたくありません！」</p>
<p>
	ここぞとばかりに真澄に日頃言いたかった事をぶちまけようと意気込むマヤだったが&hellip;</p>
<p>
	「そうか」</p>
<p>
	真澄は不機嫌な顔のまま、ぱっと手を離した。</p>
<p>
	「え？」</p>
<p>
	「そんなにみじめな想いをしたいなら、戻ればいい」</p>
<p>
	いともあっさりそう言い放つと、すたすたと会場の外へと歩いていってしまう。</p>
<p>
	ええ&hellip;！？な、なんで？</p>
<p>
	マヤは慌てて真澄を追いかけた。距離を縮め、その背中を見つめながら早足で付いていく。</p>
<p>
	「は、速水さんは何処へ行くんですか&hellip;」</p>
<p>
	怒らせてしまったのかと、すっかり弱気になってしまったマヤの声に、さっきの勢いはない。</p>
<p>
	「この先のホテルだ。今日はそこに泊まる」</p>
<p>
	マヤに気を配ることなく、真澄はさっさと足を進める。</p>
<p>
	「もう帰るんですか？」</p>
<p>
	「ああ」</p>
<p>
	「&hellip;」</p>
<p>
	黙ってしまったマヤに、真澄は、ちら、と視線を向けた。<br />
	困ったような顔をしてこちらを見ている。言葉を探して見つけられなくて声を掛けられずにいるのが分かる。<br />
	&hellip;可愛い。機嫌の悪さも瞬時に吹き飛び、ついかまいたくなる。</p>
<p>
	「来るか？一緒に」</p>
<p>
	行きません！そんな悪質な冗談を言うなんて、速水さんなんて大ッ嫌い！<br />
	と、いうような種類の返事が返ってくるのは分かりきっていた。<br />
	ほんの別れの挨拶のようなつもりで言った言葉に何の返答も期待せず、真澄はすぐに視線を戻したが&hellip;</p>
<p>
	「行っても、いいんですか？」</p>
<p>
	「は&hellip;？」</p>
<p>
	思わず足を止めて振り返り、マヤを見つめる。<br />
	面食らっている真澄に、にっこり、マヤは笑いかけた。</p>
<p>
	「優しくエスコート、してくれるんですよね？」</p>
<p>
	まさか、肯定されるとは思ってもみなかった&hellip;それとも、からかっているのか？<br />
	真澄は、ふ、と小さく笑みを零す。<br />
	まあ、こういう珍しい反応に乗ってみるのも面白そうだ。</p>
<p>
	「&hellip;意地悪な男は邪魔なんじゃなかったか？」</p>
<p>
	「いいんですもう。助言はありがたく聞いておくことにします。みじめな思いなんて、したくないですから」</p>
<p>
	不機嫌顔を崩せたことに満足して、マヤはにまにまとした。<br />
	速水さん、さっき「行ってもいいんですか」って言った時、ハトが豆鉄砲くらったみたいな顔した！<br />
	あんな顔、いままで見たことない！可笑しーい！</p>
<p>
	「付いてきてもいいが&hellip;優しくは、できないぞ」</p>
<p>
	「えっ？」</p>
<p>
	マヤの弛んでいた頬が、真澄の視線に、こわばる。<br />
	どきりとした自分を慌てて取り繕う。</p>
<p>
	「は、速水さんが優しかったときなんて、今まで見た事も聞いた事も無いんですけどっ」</p>
<p>
	「そうか？」</p>
<p>
	「そ、そうです」</p>
<p>
	「俺に優しくされたいと思うのか？」</p>
<p>
	「え、ええ、まあ」</p>
<p>
	あ、あれ&hellip;な、なんか&hellip;ヘン&hellip;？<br />
	速水さん、どうして、そんなに見つめるんだろ。<br />
	その視線に耐え切れず、カーーッと一気に顔が熱くなり、わなわなと口の端が震えてきてしまう。</p>
<p>
	あ、普通の顔しなきゃ、また馬鹿にされる&hellip;！</p>
<p>
	ぐぐっと顔の筋肉に力をこめたマヤの表情に吹きだしそうになるのを堪えて、真澄は涼しげな眼でマヤを見つめる。自分の視線に、マヤが反応しているのが分かり、堪らなく心が騒ぎ出していた。</p>
<p>
	「分かった、それなら」</p>
<p>
	するり、と腰に手をまわして、柔らかく綻んだ眼差しでマヤをのぞき込む。</p>
<p>
	「優しく、してやる。この上ないくらいに」</p>
<p>
	いきなり急接近されて、マヤの心臓が飛び上がらんばかりに鼓動し始める。<br />
	慌てて、それってエスコートの話ですよね、と言いかけたマヤの視界が翳った。</p>
<p>
	「&hellip;ん&hellip;っ？」</p>
<p>
	柔らかく、唇に触れる感触。</p>
<p>
	唇で、唇をすくいあげられ、息をついて仰け反り上向く。<br />
	空気を得られたのはその一瞬で、すぐに吐息を漏らす間もないほどの密度でキスを奪われた。</p>
<p>
	<br />
	わずかに濡れた音をたてて、唇が離れると、ゆっくりとした動きで胸の中に抱き込まれた。</p>
<p>
	「もっと、優しくしてもいいか？」<br />
	<br />
	初めて聞く耳元の甘い囁きに、マヤは頬を染めてこくりと頷いた。</p>
<p>
	&nbsp;<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
<p>
	&nbsp;</p>
]]>
    </description>
    <category>相愛以上恋人未満</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E7%9B%B8%E6%84%9B%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E6%81%8B%E4%BA%BA%E6%9C%AA%E6%BA%80/%E5%84%AA%E3%81%97%E3%81%8F</link>
    <pubDate>Thu, 22 Dec 2011 14:59:32 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>可愛く</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<br />
<br />
「久しぶりの学校&hellip;楽しかったぁ」<br />
<br />
「じゃあ、またね！北島さん！」<br />
<br />
「うん！また！また宿題うつさせてね！」<br />
<br />
「もうー少しは自分でやらなきゃだめよー」<br />
<br />
「あはっ、じゃあ、今度は一緒にやれたらいいな」<br />
<br />
「そうね、あなた様のスケジュールが合えばね」<br />
<br />
「ははーいつももうしわけありませんー」<br />
<br />
おどけるマヤに、あははは&hellip;と笑って手を振る友達。<br />
彼女らに手を振り返して、マヤは元気よく学生カバンを振り回して下校する。<br />
<br />
と、ここまでは、以前と変わらなかった。<br />
<br />
<br />
校門を出たところで、待ち構えていた記者達に取り囲まれてしまったのだ。<br />
<br />
フラッシュが遠慮なくたかれ、マヤの目が＋＋字に眩む。<br />
<br />
「沙都子ちゃん！おかえり！待ってたんだよー」<br />
「制服姿も可愛いねぇ、よく似合ってるねぇ」<br />
「いつもこのくらいの時間に帰るの？」<br />
「部活は、やっぱり、演劇部？」<br />
<br />
うわ、なに、この人達&hellip;！<br />
<br />
「あ、あたし、沙都子じゃありません！しっ、失礼します&hellip;！」<br />
<br />
振り切って逃げようとするマヤだったが、その周りを覆うかのようにして記者達がついてくる。<br />
<br />
「ごめんごめん、そのイメージが強いからつい」<br />
「北島さん、学生生活はどんな感じ？」<br />
「好きな先生はいる？好きな男の子は？」<br />
「仕事してるときと学校くるのとでは、どっちが楽しいですか？！」<br />
<br />
矢継ぎ早に質問されて、マヤはまごまごする。<br />
<br />
「え、ど、どんな感じって、どっちがって、あの、別に普通っていうか」<br />
<br />
「やっぱり、授業中もきりっとしてるんでしょう？」<br />
「沙都子だったら、きっと全教科百点だとおもいますが、マヤちゃんの成績はどう？」<br />
「テスト勉強はどうしてるの？やっぱり塾で？」<br />
<br />
「その、あのドラマの役とあたしは全然違うっていうか、正反対っていう感じなので&hellip;」<br />
<br />
この人たち、ずっとついてくるつもりかしら、ど、どうしよ&hellip;<br />
<br />
「あの、じゃあ、すみません！あたし、もう帰んないと！」<br />
<br />
ぺこりとおじぎをすると、くるりと方向転換して一気に走り出した<br />
<br />
「あー沙都子ちゃん！」<br />
「まって、好きな男の子がいるかいないかだけでも」<br />
「明日も学校へ来る？」「今後のドラマについて一言！」<br />
<br />
うわ、お、追いかけてくる～～！！<br />
<br />
「沙都子ちゃーん」<br />
「北島さーん」<br />
<br />
<br />
ああーーもう！やめてーーー！！<br />
<br />
<br />
猛ダッシュをかけてもそれほど速くないマヤの足。<br />
曲がり角を曲がって曲がって、やっと引き離したと思ったそのとき。<br />
黒塗りの大きな車が、すっとマヤの横につけられた。<br />
<br />
「やあ、チビちゃん、奇遇だな」<br />
<br />
「（げっ&hellip;）は、速水さん&hellip;」<br />
<br />
一難去ってまた一難とはこのことだ。<br />
<br />
「ずいぶんと、もてはやされているようだが&hellip;スター気取りになるのはだいぶ早いんじゃないか？」<br />
<br />
「スター気取りなんて！そんなこと思ってないです！」<br />
<br />
それよりあたし、今それどころじゃないんですけど！<br />
<br />
「あ、いたいた！沙都子ちゃーん」<br />
<br />
マヤは記者がこちらへ走ってくるのを気にして、そわそわする。<br />
<br />
「ふっ、そうか？ちょうどよかった、君に聞きたいことがあったんだ」<br />
<br />
「あ、あたしに、ですか？で、でも今、そんな状況じゃないんです！」<br />
<br />
逃げる体勢で、足踏みをする。<br />
<br />
速水さんなんかが、あたしに何を聞きたいっていうんだろ。<br />
<br />
それが、ちょっと、気になる。けど&hellip;<br />
<br />
「あー追いつかれちゃう！じゃ、さよならっ、速水さん」<br />
<br />
すると真澄は、車から降りてきてマヤの腕を掴んで言った。<br />
<br />
「ここで話すのもなんだから、車に乗るといい。家まで送ろう」<br />
<br />
「え&hellip;い、いいですよ、すぐ近くだし」<br />
<br />
「家までずっと記者に追い回されたいか？いいから乗れ、チビちゃん」<br />
<br />
結局、有無を言わさず、乗せられてしまった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「高校生の女の子に渡すプレゼントを考えているんだが、分からなくてね。それで、君に選んでもらえないかと思っているんだが」<br />
<br />
「そんなの、私じゃなくったってもっと他に適役の人がいるんじゃないですか？」<br />
<br />
「非常に残念ながら、俺には高校生の知り合いは君くらいしかいなくてね」<br />
<br />
「は、はあ&hellip;」<br />
<br />
なんか、すっごく、うさんくさい。<br />
<br />
「もし&hellip;時間があればだが、よければこれから少し買物に付き合ってくれないか？」<br />
<br />
「い、今からですか？！」<br />
<br />
「ああ。何か予定があるのか？」<br />
<br />
「そりゃ、別に予定ないですけど」<br />
<br />
「それなら、このまま行こう。俺もそうそう時間は空けられないからな」<br />
<br />
「え&hellip;ええー？！」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「&hellip;速水さん」<br />
<br />
「なんだ？」<br />
<br />
「あの、私と同い年って言ってましたよね？その、贈り物をする相手」<br />
<br />
「そうだが？」<br />
<br />
学生服姿で入るには、気後れしてしまうような店構えだ。<br />
<br />
「高校生には、ちょっと高価すぎるんじゃないでしょうか&hellip;」<br />
<br />
「そうか？喜ぶと思うが？」<br />
<br />
いったい、どんな知り合いなんだろ。<br />
<br />
<br />
しゃれっ気がないマヤには、アクセサリーのことはよく分からない。<br />
<br />
だいたい、なんで、あたしに？！明らかに人選ミスだと思うんだけど&hellip;！<br />
<br />
<br />
「チビちゃんだったら、どれを選ぶ？」<br />
<br />
「え？えーと&hellip;」<br />
<br />
急に言われても、困ってしまう。<br />
<br />
きらきらと光り輝く指輪やネックレス、そして値札の額の大きさに、目がチカチカしてくる。<br />
<br />
「これなんかは、どうだ？」<br />
<br />
「え&hellip;わ、あのっ」<br />
<br />
真澄の指し示した商品を、心得たように店員がマヤの首に付けて鏡を見せてくれた、が&hellip;<br />
<br />
<br />
うっ、似合わない&hellip;！<br />
<br />
「速水さん&hellip;」<br />
<br />
「なんだ？気に入らないのか？」<br />
<br />
「それ以前の話だと思います&hellip;あたし今制服だし、こういうの似合わないから」<br />
<br />
「ふーん？そうか&hellip;それなら服装も変えてみるか？」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;は？&hellip;え？ちょ、ちょっと、何処へ連れて行く気なんですか？！」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「&hellip;&hellip;速水さん」<br />
<br />
「なんだ？」<br />
<br />
「あの&hellip;まさかとは思いますけど、あたしを何のために連れてきたか忘れてやしないでしょうね？」<br />
<br />
「ちゃんと最初に言ったろう」<br />
<br />
「そうです！贈り物を選べって言われて連れてこられたんです！」<br />
<br />
「ああ、そうだが？」<br />
<br />
「それなのにさっきからずっと&hellip;な、なんで、私に買ってるんです？」<br />
<br />
「なんで、と言われてもな」<br />
<br />
「だって、サイズを合わせたり、私が気になって手にとったものは全部買ってるみたいだし」<br />
<br />
そんなにたくさん贈られたら驚かれちゃうと思うけど&hellip;<br />
<br />
「だから、俺には高校生の知り合いは君くらいしかいと言ったろう？」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;えっ」<br />
<br />
<br />
じゃ、じゃあ、最初から、あたしへのプレゼントを選びにきてたの？！<br />
<br />
ひくりと口元がゆがむ。<br />
<br />
な、なんでまた、あたしに&hellip;？<br />
<br />
<br />
「頑張っている褒美だ。明日からは、送り迎えの車をよこそう。マスコミがいては落ち着いて登下校もできんだろうからな」<br />
<br />
「うそっ&hellip;！い、いりませんよ、あんなにたくさん！」<br />
<br />
「もう遅い。買ってしまったからな」<br />
<br />
「やだっ、あなたから何かもらったら、見返りが怖いもの、絶対いらない！いらないですー！」<br />
<br />
「褒美だと言っているだろう。だが、見返り、か&hellip;」<br />
<br />
面白そうにマヤを見て、真澄はふっと笑って言った。<br />
<br />
「チビちゃん、それなら見返りとしてもう少し俺に付き合ってもらおう」<br />
<br />
「えっ、このうえ、どこへ付き合えっていうんですか」<br />
<br />
迷惑そうなマヤの腕をひっぱって、真澄は早足で歩きだした。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
連れ回される事に抵抗が薄れて、手をひかれて辿り着いたところは。<br />
<br />
&hellip;ここって、写真屋さん？<br />
<br />
「うわ&hellip;」<br />
<br />
なんだか、昔ながらって感じ&hellip;<br />
<br />
飾られている写真も、どこか年代を感じる。<br />
<br />
「おや、ぼっちゃん！久しぶりだねぇ」<br />
<br />
「ああ、いつ以来かな」<br />
<br />
「あれま、可愛い娘さんだね、姪っ子さんかなにかかい？」<br />
<br />
「まあ、そんなところだ」<br />
<br />
「ちょっ&hellip;いつからあたしが速水さんの姪に&hellip;っもがっ」<br />
<br />
「それで、このチビちゃんの写真を撮ってもらいたいんだが」<br />
<br />
「ああ、分かりました。じゃあ準備するからちょっと待ってて下さいよ」<br />
<br />
店主が奥にひっこんでしまうと、マヤは口を尖らせて小声で言った。<br />
<br />
「&hellip;もしかして、さっき買った服とか着て撮れっていうんですか？」<br />
<br />
もしかして、贈り物の覚書がわり？！<br />
<br />
「いや、そのままでいい」<br />
<br />
「えっ&hellip;」<br />
<br />
制服のまんま？！ますます、わけが、分からないんだけど&hellip;<br />
<br />
「君の母親に送ってやるといい。持っていないんじゃないか？君の制服姿の写真」<br />
<br />
「写真を&hellip;母さんに&hellip;？」<br />
<br />
ん？！でも、それのどこが見返り？よけい速水さんのお世話になっちゃうじゃない。<br />
<br />
でも&hellip;<br />
<br />
送ったら、母さん、喜んで、くれるかな&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「はい！撮りますよぉー」<br />
<br />
緊張することもなく、ゆったりとした時間の中で撮影が始まる。<br />
<br />
「もうちょっと、こっち見て&hellip;そうそう、はい笑って」<br />
<br />
写真という空間を越えて、マヤは心の中で呼びかけ続ける。<br />
<br />
親不孝な子で、ごめんね、母さん&hellip;<br />
母さん、あたし&hellip;元気で、やってるのよ。母さんはどうしてる？<br />
あたし、母さんに、会いたい&hellip;<br />
<br />
「ああ、すごくいい表情で撮れましたよ。誰か大事な人のこと、考えていたんでしょう」<br />
<br />
「え、そ、そうですか？それは、どうも&hellip;」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「ほれ、可愛く撮れていますよ」<br />
<br />
「撮る人の腕がいいんだな」<br />
<br />
マヤの横から覗き見た真澄がすかさずそんなことを言ってマヤをからかう。<br />
<br />
「むうっ&hellip;素直に褒めるとかできないんですか、速水さんは！」<br />
<br />
むっとするマヤと真澄を見比べ、店主はぽんと手を打った。<br />
<br />
「そうだ、ご一緒に写ってはいかがです？」<br />
<br />
「は？」<br />
<br />
「なかなか姪っ子さんと一緒に写真なんて撮る機会はないでしょう。さあさあ、ぼっちゃん、そこに並んで」<br />
<br />
「え」<br />
<br />
二人一緒に押し出されて、肩が真澄にぶつかる。<br />
<br />
「ほい、こっちむいて。お二人とも、そんな仏頂面しないで、ほれ、もっと笑って笑って！」<br />
<br />
笑えっていったって、ゲジゲジの横で笑顔なんてできない&hellip;！<br />
<br />
「もっと、可愛く！ほれ、ぼっちゃんも、もっと可愛く笑って！」<br />
<br />
それを聞いたマヤがぶはっとふきだす。<br />
<br />
速水さんに向かって、可愛くだなんて！<br />
<br />
「チビちゃん、何がそんなに可笑しい？」<br />
<br />
「だって&hellip;っ可愛い速水さんなんて、想像できない&hellip;！」<br />
<br />
あはははは！と大口をあけて笑い出すマヤ。<br />
<br />
「失礼だな、君は。俺にだって、可愛い頃はあったんだぞ」<br />
<br />
「そうですとも、それはそれは可愛らしかったんですから」<br />
<br />
「え！速水さん、ここで小さい頃に撮ってもらってたんですか？それって、見せて頂くことってできるんでしょうか」<br />
<br />
「残念ながら、ここには残っていないんですよ」<br />
<br />
「なあんだ、つまんない」<br />
<br />
「なんだチビちゃん、見たかったのか？」<br />
<br />
「そりゃそうですよ！可愛い速水さんなんて、すっごく貴重じゃないですか」<br />
<br />
「同じだろ、ここにいる俺と変わらんぞ、同一人物なんだからな」<br />
<br />
「違うー！絶対、違うと思います！」<br />
<br />
<br />
そんな調子で、店主が現像をしている間も、二人はずっと言い合いをしていたようで。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「まあ、仲良くやってくださいよ」<br />
<br />
大きな口を開けて可愛く笑ったマヤと真澄の写真を、店主は微笑ましく見つめた。<br />
<br />
ぼっちゃんも、こんなふうに笑った顔ができるんですねぇ。<br />
<br />
子供の頃の寂しそうな顔ばかり撮ってきたから、なんだか嬉しいですなぁ&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
]]>
    </description>
    <category>社長と高校生</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E7%A4%BE%E9%95%B7%E3%81%A8%E9%AB%98%E6%A0%A1%E7%94%9F/%E5%8F%AF%E6%84%9B%E3%81%8F</link>
    <pubDate>Thu, 22 Dec 2011 14:56:58 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mameruku.en-grey.com://entry/37</guid>
  </item>
    <item>
    <title>陰影１</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>
	<br />
	<br />
	<br />
	別段、疑問に思わない。<br />
	<br />
	役に立つのなら、それでいい。<br />
	<br />
	<br />
	だから、孤独だとは思わなかった。<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	助手席から薔薇の花束を掴み、車から降り立つ。<br />
	<br />
	「こんにちは」</p>
<p>
	紫色のバラを携えて、彼女の前に姿を現す。<br />
	<br />
	私に気がつくや嬉しそうに微笑みかけてこちらへ駆け寄ってきた彼女だったが、何かに気がついて表情が一変する。<br />
	<br />
	最初は急くように大きかった歩幅が、だんだん小さくなり、戸惑う声と共に私の前で立ち止まった。<br />
	<br />
	「あなたは&hellip;『松本』さんなんですね&hellip;」<br />
	<br />
	「ええ、そうです。残念そうですね。『聖』のほうが、よろしかったですか？」<br />
	<br />
	「い、いいえ！そんなことは&hellip;」<br />
	<br />
	薔薇を差し出し、くすりと笑う。<br />
	<br />
	「あの方は、今日も気がつきませんでしたよ。あなたは、すごいですね」<br />
	<br />
	「は&hellip;そう、なんでしょうか」<br />
	<br />
	薔薇を受け取る腕が、緊張にこわばっている。<br />
	<br />
	そんなに萎縮しなくてもいいだろうに。<br />
	<br />
	「私が、怖いですか？」<br />
	<br />
	「そ&hellip;そんなことは&hellip;」<br />
	<br />
	「そんなにおびえなくてもいいのですよ、マヤさん。あなたに危害を加える気はありません」<br />
	<br />
	薔薇を持つ手に力が篭っている。言っていいのかどうか、迷っているのだろう。<br />
	<br />
	「あの&hellip;止めていただくことはできないんでしょうか&hellip;復讐なんてあなたにとってもいいことじゃないと思うんです&hellip;」<br />
	<br />
	「それは、あなたの立場からの意見でしょう。それに、私は復讐をするわけじゃない。私の場所を取り戻すために生きているのですから」<br />
	<br />
	「で&hellip;でも、あなたが目的を果たしたら&hellip;聖さんは、どうなるんでしょうか」<br />
	<br />
	「ああ&hellip;そんなことを心配されているのですか。何も、変わることはないのです。聖唐人という存在はこの世からなくならないのですから」<br />
	<br />
	言葉の通じない悲しい人間。<br />
	<br />
	互いを見つめ、同じ事を相手に思う――<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	<br />
	薔薇を持って、初めて彼女の前に姿を現したのは先月のことだ。<br />
	<br />
	「うわあ&hellip;すごい&hellip;！」<br />
	<br />
	興奮のあまり、その頬が紅潮している。</p>
<p>
	「ごめんなさい、私の知っている人と、あんまりそっくりで驚いちゃって&hellip;もしかして、ご兄弟とか？」</p>
<p>
	私は驚きに目を見開いて、彼女の顔をまじまじと見つめた。<br />
	<br />
	あの方ですら、気がつかなかったものを&hellip;こんなにあっさりと見抜くなんて。<br />
	<br />
	もとより引っかかりもしないとは&hellip;思いもしなかった。</p>
<p>
	それくらい、私と「聖唐人」は「同じ容姿」をしているのだ。<br />
	<br />
	今まで誰にも見破られたことはない。<br />
	<br />
	もっとも、接触する人間はごくごく限られた数しかいないのだが。</p>
<p>
	『何を言っているんです？私は、いつものようにあなたに紫のバラをお届けに伺ったのですよ』<br />
	<br />
	冷静さを装って口を開きかけたが、自分の発言に何の疑いも持たない彼女の目を見て、それがまったく無駄なことだと知る。</p>
<p>
	「&hellip;そんなに、違いますか？」</p>
<p>
	口調も声も、少しの違いも無いはずだ。</p>
<p>
	「いいえ！背格好顔形もうそっくりで！まるで本人としゃべっているみたいです&hellip;！」<br />
	<br />
	それで、どうして別人であるとわかるのか。<br />
	<br />
	『本人』という言葉に頬が歪みそうになるのを耐えて、続ける。<br />
	<br />
	「あの方は、気がつきませんでしたよ。彼に成りすまして嘘の報告をしましたが、まったく疑いもしませんでした。この薔薇も&hellip;平気で私に託されたほどです」<br />
	<br />
	大切な相手へ贈る、秘めた薔薇。<br />
	<br />
	「成りすます？う、嘘って&hellip;&hellip;」<br />
	<br />
	この薔薇が、長い間、速水社長とこの女性を&hellip;聖とを繋いでいたのだ。<br />
	<br />
	「あなたの言うとおり、私は聖唐人の血縁者です。入れ替わって遊んでいるのですよ、時々&hellip;ね」<br />
	<br />
	「そんなにそっくりということは、双子のお兄さんなんですよね？」<br />
	<br />
	「いいえ&hellip;違いますよ。ああ、あなたの所為で、少しだけ、予定が狂ってしまいました」</p>
<p>
	薔薇を渡す際に、花々の隙間から封筒を抜き取ると、指先に力を篭めて真っ二つに破り去る。</p>
<p>
	「あっ！」<br />
	<br />
	びりびりと細かく破かれていく紙片に、彼女は怒りの表情を浮かべる。<br />
	<br />
	「なっ、なんてことをするんです！？」<br />
	<br />
	「心配しなくても、この手紙は私があなたに渡そうと思って書いたものです。あの方からあなたに宛てたものではありませんよ」<br />
	<br />
	「あなたが&hellip;？私に？」<br />
	<br />
	「ええ」<br />
	<br />
	あの男が、欲しくても決して手にいれない女性。<br />
	<br />
	裏切ることの出来ない立場。あの男は、主を裏切る気はない。<br />
	<br />
	私には理解の出来ない感情だが、都合がいい。<br />
	<br />
	<br />
	焦る事はない。<br />
	<br />
	欲しければ、奪わせてやろう。&nbsp;<br />
	<br />
	主を裏切ることなく、彼女を手に入れられるように。<br />
	<br />
	そうして、私は、自分の場所を取り戻すのだ――<br />
	<br />
	「あの&hellip;聖さん？それは、どういうことなんでしょう？」<br />
	<br />
	「私は、聖ではなく、松本という名です。今日入れ替わっていたことは、どうか誰にも言わないで下さい。聖にも、決して言ってはなりません」<br />
	<br />
	「え&hellip;な、なぜ&hellip;？」<br />
	<br />
	「口外してしまったら、あなたは紫のバラの人との橋渡し役の男を、永遠に失ってしまいますよ」&nbsp;<br />
	<br />
	彼女の戸惑いに、怯えが混じる。脅しとも取れる、得体の知れない男からの言葉に、彼女は不穏を感じている。<br />
	<br />
	「私の存在を、聖唐人は知らないのです。私は、このまま、あの方の影として、あの男に成り代わるつもりなのです。あなたが下手にそれをばらせば、聖も私もあなたにあの方のバラを届けることは出来なくなってしまいますよ」<br />
	<br />
	「どうして&hellip;」<br />
	<br />
	すべてを理解できるはずもない。私は、彼女に笑いかける。<br />
	<br />
	「あなたが私を、別の人間だと見抜かなければ、よかったのです」<br />
	<br />
	理不尽な事を言う自分が、ひどく可笑しい。<br />
	<br />
	「ですが、別人だと知ってしまったからには仕方がありません。以後、私のことは、今まで通り、聖として接して下さい。そうすれば、私はあの方の使いとしてあなたにバラをお届けし続けることができるのです」<br />
	<br />
	「あ、あなたは&hellip;いったい&hellip;」<br />
	<br />
	あくまでも、影の存在として。<br />
	&nbsp;<br />
	影の存在にも、そこで生きていく居場所がある。<br />
	<br />
	<br />
	「私は、『聖唐人』です。あなたにとって何も、変わりはありませんよ、マヤさん」<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
]]>
    </description>
    <category>SACRILEGE</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/sacrilege/%E9%99%B0%E5%BD%B1%EF%BC%91</link>
    <pubDate>Wed, 22 Dec 2010 14:50:59 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mameruku.en-grey.com://entry/38</guid>
  </item>
    <item>
    <title>光風１３</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>&nbsp;</p>
<p>「ありがとう！爺や！ありがとう！北島！ああ、俺ってなんて幸せな男なんだ！」&nbsp;<br />
<br />
<br />
マヤはじっとりと湿った視線で、浮かれ騒ぐ鷹久を見る。<br />
<br />
「なーんか、お幸せそうですけど。どうされたんですかねえぇ？」<br />
<br />
「そういう北島は、なんか機嫌悪そうだけど&hellip;どうしたの？」<br />
<br />
まさか、あの冷血男と、うまくいかなかったのか？！<br />
<br />
「最初から&hellip;知ってて私を拾ったんですね？」<br />
<br />
あの後、真澄に「君の面倒は俺が見る」とか言って渡された契約書は、柳禅から大都への移籍に関するものだった。<br />
<br />
いったい&hellip;いつから私には柳禅の専属秘書という役付きがついていたんだろ。<br />
<br />
実質、そんな仕事は書類一文字だって受けてない。<br />
ニセモノの雇用関係が勝手に結ばれていた事にマヤは驚き、それを真澄が持っていた事にさらに驚愕した。<br />
<br />
「あなたが柳禅グループの総帥だなんてまったく聞いてなかった&hellip;私を恩人だとか言って持ち上げて善意で置いてくれてるようなふりをして、やっぱり何か裏があったんですね。それはまあいいですけど、速水さんと、ぐるだったなんて&hellip;」<br />
<br />
「それは違うよ！確かに速水真澄との交渉に北島は利用価値高かったし、あの人に手厚く看病してくれって頼まれたからだけどさ」<br />
<br />
「あの人？あの人って誰なんです？！」<br />
<br />
「いや、とにかくさ、君のおかげで俺は失恋から立ち直るきっかけがつくれたんだ。君があそこに倒れてなかったら、俺はいまだにストーカーまがいのこと続けてたかもしれない」<br />
<br />
「ス、ストーカー？！」<br />
<br />
「うん。ずっと好きだった人に声をかけるきっかけを、君が作ってくれたんだ。相手にされなくて、婚約までしてる女性をずっとあきらめられずにいたんだよ。どうにかして、奪い取ってやろうと思っていたんだ」<br />
<br />
「それって&hellip;」<br />
<br />
&hellip;まさか。<br />
<br />
紫織に呼び出されたとき、やたらと行く事をせかし、ご親切にも送り届けてくれたのは&hellip;<br />
<br />
きっと、それにも、色々魂胆があったんだ。<br />
<br />
「頑張れ」とか、純粋に私のために言った言葉じゃなかったんじゃない&hellip;！<br />
<br />
<br />
マヤは頭をかかえたい気分で恨みがましく鷹久を睨んだ。<br />
<br />
「それにしたって！それならそうと初めに言ってくれればあんな取り乱したりしなくてすんだのに！」<br />
<br />
「え、そんなに、取り乱したの？」<br />
<br />
「ええ、それはもう、パッション全開でございました。爺やはすべて見ていましたぞ、こう胸がキュウンといたしました」<br />
<br />
「ひどい！ひどいですよ！！みんなして面白がって！私を、なんだと思ってるんですか！！」<br />
<br />
「ええー？いいじゃないか、それで北島だって結果的には円満になるわけだし。みんなで幸せになれたんだからさー」<br />
<br />
「私は！幸せじゃ、ないです！」<br />
<br />
「なんで？速水真澄とうまくいってないの？」<br />
<br />
「だって、そうそう簡単には信じられないもの」<br />
<br />
「でも好きなんだろう？いいじゃないか、そんなに意地はらなくったって。素直に彼の胸に飛び込んだら？」<br />
<br />
「&hellip;何かまだ魂胆があるんでしょう？」<br />
<br />
「ないない！大丈夫だよ！すっきりあとくされ無し！こんなにうまくいくと思わなかったなあー、俺、これからデートなんだー」<br />
<br />
「えっ、デートって&hellip;」<br />
<br />
「もちろん、本命の彼女だよ。他の子達にはちゃんと言って断ってあるし。結婚を考えている人が出来たからもう会えないってね」<br />
<br />
「へ、へええー」<br />
<br />
そうそう人って変われるものなのかなぁ&hellip;<br />
<br />
「&hellip;よかったですね、大事に出来る人が見つかって」<br />
<br />
「うん！ありがとう！北島も、大事にしておいで！じゃあね！」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
<br />
意気揚々と出かけていく鷹久が、なんだか羨ましくなってきて、マヤはちらりと時計を見た。<br />
<br />
まだ間に合う、かな&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
真澄に指定された時間に社長室に着くと、すぐに封筒を渡された。中を開けて見て、マヤは眉を顰める。<br />
<br />
「なんなんですか？これ」<br />
<br />
&hellip;ついこの間も、同じ形式の書類を見たような気がする。<br />
<br />
「この間は、君が涙でぐしゃぐしゃにしてしまったからな」<br />
<br />
ご丁寧にも、記名と印鑑までも同じようにしてある。<br />
<br />
「な、なんで&hellip;」<br />
<br />
「マヤ&hellip;君はいつまで柳禅の屋敷にいるつもりだ？」<br />
<br />
「も、もう自分のアパートに戻ります！」<br />
<br />
実際は、戻ろうとしたらもう勝手に鷹久が解約していて、今は新しい住まいを探しているところだった。<br />
<br />
それは真澄には知られたくなかったマヤだったが&hellip;<br />
<br />
「何処に？君が住んでいたアパートはもう別の入居が決まっているらしいが？」<br />
<br />
&hellip;知られたくないもなにも、なかった。真澄にはすべて筒抜けなのだ。<br />
<br />
「君の住まいは、俺が用意しよう」<br />
<br />
「どうして、速水さんがそんなこと」<br />
<br />
真澄にすっと手を握られて、マヤはぎょっとして目を見開く。<br />
<br />
な、なに&hellip;？そんな神妙な顔したって、だまされないんだから&hellip;<br />
<br />
「すまなかった。君の気持ちを傷つけたことは、俺の傷にもなっている。どうか&hellip;許してはもらえないだろうか」<br />
<br />
「&hellip;ゆ、許したら、どうなるんです？罪をつぐなえるとでも思ってるんですか？」<br />
<br />
「償わせてくれないか？」<br />
<br />
「ど、どうやって&hellip;」<br />
&nbsp;<br />
「俺の、すべてをもってだ」<br />
<br />
「私が、紅天女を放棄しても、そう言えますか？」<br />
<br />
「なぜだ？それが何の関係がある？」<br />
<br />
「し、紫織さんのことは？まだ&hellip;好きなんじゃないんですか？」<br />
<br />
「紫織さんには、分かっていたんだ。俺が彼女ではなく、君を好きだということが」<br />
<br />
「そんな&hellip;」<br />
<br />
「俺は、君が好きなんだ。もうずっと長く&hellip;君を見ていた。君は&hellip;俺が紫のバラを、贈っていたことを知っていたんだな」<br />
<br />
「！」<br />
<br />
真澄からバラの事を告げられると、マヤの目から涙が湧き上がり、ぼろりと大粒の雫を頬に零した。<br />
<br />
「いつから、気付いていた？知っていて、なぜ黙っていたんだ？」<br />
<br />
「だって&hellip;！言ったら、速水さんは、もうバラを贈ってくれなくなると思ったんだもの&hellip;！」<br />
<br />
「マヤ&hellip;」<br />
<br />
「どうして&hellip;正体を隠していたんですか&hellip;」<br />
<br />
「贈り続けているうちに、君を愛おしく思う気持ちが大きくなっていた。正体を明かせば、それを君に伝えてしまいたくなる。速水真澄ともあろう男が、年の離れた君のような娘に恋焦がれているなんて&hellip;許されはしないだろう」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
<br />
<br />
「マヤ？」<br />
<br />
真澄は、涙を流すマヤの顔を覗き込んだ。</p>
<p>「は、はやみさんなんかっだっだいっき&hellip;っ」</p>
<p>最後の方は聞き取れないほどしゃくりあげるマヤ。<br />
<br />
想いを伝えようとする唇から頬をなぞって、真澄は緩やかに頭を撫でた。</p>
<p>前に進むのにどれだけ時間がかかったのだろう。<br />
<br />
こんな日を願う心に、逆らいつづけた日々が嘘のようだ。<br />
<br />
やっとのことで嗚咽をおさめたマヤに、真澄は優しく告げる。</p>
<p>「マヤ&hellip;改めて聞く。結婚してくれるか？」</p>
<p>明確なプロポーズの言葉に、マヤは泣きすぎて赤くなった目を眇める。<br />
<br />
恥ずかしさと感激、それから腹立だしさが入り混じり、マヤはぷいっと顔を背けながら精一杯つんととがった声を出してみせた。</p>
<p>「もう知らない！どうせいやだって言ったって聞かないんでしょう？か、勝手に！かってにしたらいいんだわ！」</p>
<p>「&hellip;そうか」</p>
<p>くっくと笑う真澄を、マヤは面白くなさそうにふくれ顔で見つめる。</p>
<p>「&hellip;速水さん」</p>
<p>「うん？」</p>
<p>「私は、まだ速水さんの言うこと、信じられないんです」</p>
<p>「ああ、それも仕方ないだろうな」</p>
<p>「こっ、これから長い時間をかけてそれを私に解らせて下さい&hellip;」</p>
<p>「それは&hellip;嫌だな。もう充分過ぎるほど長い時間をかけたんだ、そんな悠長な解らせ方はもう出来ない」</p>
<p>「&hellip;そうじゃなくて！ああ、もう！鈍感！今のはプロポーズに対する返答です！」</p>
<p>「ふっ、チビちゃんらしくないな、今度は遠まわしに言うことにしたのか？」</p>
<p>「いーっ速水さんに言われたくない！」</p>
<p><br />
憎まれ口を言いながらも、マヤは頬が弛んでいくのを感じる。<br />
<br />
もう、ずっと抱えていたわだかまりなんてすっかり消えてなくなっていた。<br />
<br />
胸に柔らかく暖かな光が注ぐ。<br />
<br />
二人はふっと笑い合い、どちらからともなく抱きしめあったのだった。</p>
<br />
<br />
<br />
<br />]]>
    </description>
    <category>光風霄月</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E5%85%89%E9%A2%A8%E9%9C%84%E6%9C%88/%E5%85%89%E9%A2%A8%EF%BC%91%EF%BC%93</link>
    <pubDate>Fri, 10 Dec 2010 03:35:59 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>光風１２</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
<br />
<br />
<br />
「ええ、条件的には大都よりもはるかに良い筈です。あんな冷血な男に大事なお孫さんを嫁がせるなんてまったくもって問題外です。ええ、会いましたとも、予想以上に愚かな男でした。紫織さんを幸せに出来るのは、有り余るほど愛と金のある私以外にはいないでしょうね」</p>
<p>&nbsp;爺やの懸念どおり、鷹久の話の中心は鷹宮グループの買収話ではなく、紫織の婚約に関することだった。</p>
<p>&nbsp;「婚約を阻止したくて大都の買収を考えたこともありました。そうして速水真澄を社長職から退け、あなた方の興味を失わせようと思っていたのです。が、それよりも僕は、いずれ、うちの経営コンサルタントに速水真澄を引き抜く事を考えています。恋敵としては愚かな男ですが、柳禅グループの要人に彼ほど適した有能な人間はいませんからね」<br />
<br />
それでも要所要所は捉えているようなので、良しとしていいだろう。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「む&hellip;ぅ&hellip;」<br />
<br />
会社の「頭」と言うよりは、「チャら男」という言葉が当てはまりそうなその男を、鷹通グループを担ってきた老翁は品定めするように見据える。<br />
<br />
「会長&hellip;まさか、受ける気ではないでしょうね？」<br />
<br />
ひそひそと、傍らの重役の一人が身を寄せて囁く。<br />
<br />
「いけません！社の命運を好きにもてあそばれた上、この上、紫織様までも&hellip;愚劣な若造に屈するような真似はおやめ下さい&hellip;！」<br />
<br />
「そうです、それに紫織様は、誰が見ても大都の若社長にぞっこんではないですか。そう簡単に話を聞き入れていただけるとは思えません」<br />
<br />
後ろに控えていた叔母までもが口を揃える。</p>
<p>美しい孫にさほど靡かなかった速水真澄だったが、そんな冷血な男でも紫織が慕っていたのを知っている。<br />
<br />
大都との縁談が持ち上がったのとほぼ時を同じくして、柳禅も紫織の縁談相手として挙がってはいたが、速水英介の持ちかけた交渉条件と圧力に柳禅の名は立ち消えた。<br />
<br />
（鷹宮の&hellip;柳禅に気を許してはならんぞ、あれはここ数年で急激に成長しすぎている。聞けば、総帥はまだ経験も浅い若造じゃないか。闇雲に駆けていずれ失速するのは目に見えている。ここは、うちと提携しておいていずれ鷹宮を超える力を持つべきではないかね？）<br />
<br />
英介の言葉に頷き、どちらが将来性がある男かと問われれば、その時点で真澄に軍配が上がるのは当然だった。<br />
そうして、それが最善と信じて、鷹宮は柳禅からのアプローチは歯牙にもかけなかったのだ。<br />
<br />
大きすぎる勢力は、身を滅ぼしかねない。<br />
<br />
それを鷹宮は、昨今では痛切に感じていた。<br />
<br />
がらがらと、積み木が崩れるように、自分の与り知らない所で、手を広げた場所が崩壊しているのだ。どうにかして食い止める手段を打たなければ。<br />
<br />
今となっては、大都など足元にも及ばない飛躍を遂げている柳禅との繋がりを、ここで頑強なものにしておきたい&hellip;<br />
<br />
だが、そう易々とこんな若造の思う侭になぞさせんぞ&hellip;幸い、こいつはうちの紫織を気に入っているようだ。まずは身内から絡めとってやろう&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
暫しして、呼び寄せていた孫娘が付添を伴ってやってくると、「鷹宮の会長」の顔を潜め、「孫思いの年寄り」の様相で告げにくそうに縁談話をもちかける。<br />
<br />
「ああ、紫織&hellip;おまえに来てもらったのは他でもない、おまえの身辺に関わる大切な話があってのことだ。おまえには申し訳ないが、速水家との縁はやはり無かったことにしてもらいたい&hellip;」<br />
<br />
「ええ&hellip;わかりましたわ、お爺様」<br />
<br />
意外にも、取り乱すことなく静かだ。落胆をしているだろう孫に、さらに言い募る。<br />
<br />
「それが、おまえのためでもあると踏んでのことだ。ああ&hellip;それよりもだ、予てから伝えていた柳禅との縁談の話を進めたいとかんがえている。もしおまえの気が進まないのなら断ってもいい&hellip;だが、彼は本気でおまえを愛すと&hellip;」</p>
<p>さあ、どうやってこの孫にこの縁談を言い含めようか&hellip;やはりここは愛情に訴えるのがいいか&hellip;？<br />
<br />
そんな画策を巡らせる前で、卓の茶をひっくり返しながら鷹久がやおら勢い良く立ち上がった。</p>
<p>「し、紫織さん！！お、俺、あなたのためにここまで頑張ってきたんです！だから、約束、守ってくれますよね？紫織さん&hellip;！」</p>
<p>「そう、みたいですわね」</p>
<p>たおやかに、花が開花するような微笑みで自分を見る紫織に、鷹久は頬を崩す。</p>
<p>「し、紫織しゃん&hellip;」</p>
<p>「ありがとう&hellip;紫織はとても嬉しいですわ」</p>
<p>「む&hellip;？！約束とは何だ？お前達、これが初めて会うわけではないというのか？！」</p>
<p>「ええ。お爺様、真澄様との婚約は、ちょうど破棄させていただこうと思っていたところでしたの」<br />
<br />
「！そ、そうか、そうか&hellip;！いや、それならば話は早い！」<br />
<br />
「それで&hellip;紫織は、ぜひこのお話お受けしたいのですけれど」</p>
<p>「&hellip;！？」</p>
<p>「殿方には愛すより、愛されろって言うそうですから。私も、自分のすべき事をして気持ちの整理はついていますわ」</p>
<p>鷹久に向かって紫織はふふっと微笑み、その頬をほんのり染めて言った。</p>
<p>「それにわたくし、初めてあなたに会った時、子供ながら何かを感じていたのかもれません。ふふ、一目惚れって、あるんですのね？」</p>
<p><br />
絶対に猛拒否すると思っていたものを、いともあっさり受け入れられて、そこにいる誰もが驚きに目を瞠った。</p>
<p>「し、紫織&hellip;おまえ&hellip;？」</p>
<p>「ま、まーじーーでーーー！！！！？」</p>
<p>「よかったです！よかったですなぁ！坊ちゃま！！」</p>
<p>&nbsp;爺やと抱き合って感涙を流す鷹久がおかしくて、紫織はころころと笑った。<br />
<br />
「&hellip;本当にいいのか？この男で&hellip;」<br />
<br />
苦労するかもしれんぞ&hellip;？という祖父の不安げな声が、また、可笑しい。<br />
<br />
自分で勧めておきながら、何をおっしゃるのかしら、お爺様ったら&hellip;！<br />
<br />
<br />
<br />
「いいの。この方が、いいんですの」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>光風霄月</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E5%85%89%E9%A2%A8%E9%9C%84%E6%9C%88/%E5%85%89%E9%A2%A8%EF%BC%91%EF%BC%92</link>
    <pubDate>Fri, 19 Nov 2010 12:50:19 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mameruku.en-grey.com://entry/31</guid>
  </item>
    <item>
    <title>光風１１</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
さわさわと、優しいそよ風がテラスを抜けていき、マヤの前髪をなでていく。<br />
<br />
ずっと泣き続けていたマヤだったが、散々泣いたところであたりの静けさに自分の嗚咽が響き渡っているのが恥ずかしいと感じはじめ、ぐびっと泣き声を堪えた。<br />
<br />
頭の中で、自分の放った言葉を反芻し、きまりの悪い思いでテーブルに伏せていた頭を持ち上げると、マヤはずびっと鼻を啜り上げた。<br />
<br />
ああ、やっちゃった&hellip;みっともない。<br />
<br />
あの人たちの思うつぼじゃない。こんなみじめな姿見せちゃうなんて。<br />
<br />
<br />
<br />
涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげたマヤは、真ん前で片肘をついて座っている真澄に険しい顔を向けた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;どうして、そこにいるんですか」<br />
<br />
「どうしてだと？愚問だな」<br />
<br />
まるでここにいるのが当たり前と言わんばかりの口ぶりだ。<br />
<br />
マヤは居心地悪く手に持っているハンカチを握りしめた。<br />
<br />
涙で潤んだ視界に、真澄のハンカチが差し出される。<br />
<br />
「落ち着いたか？」<br />
<br />
マヤのハンカチはもう涙でぐしょぬれだった。<br />
<br />
小ぎれいなそのハンカチを無視して、マヤは赤く腫れた目尻をぐいと袖で拭った。<br />
<br />
そうしてやっと、前に座っていた人物が替わっていることに気がつく。<br />
<br />
「あ、あの&hellip;し、紫織さんは」</p>
<p>「彼女なら帰ったが？」</p>
<p>「ど、どうしてっわ、私、今、紫織さんと大切な話をしてたんですよ！」</p>
<p>「大切ってどんな&hellip;っは、おい、ちびちゃん！ひどい顔だぞ」</p>
<p>婚姻届の上に突っ伏して泣いたせいで、署名のインクが滲み目の周りに黒い汚れを作り、署名の脇に押されていた印の朱がそのままマヤのひたいに転写していた。<br />
<br />
そんなことに気がつきもせず、マヤはぎりりと真澄を睨み付ける。</p>
<p>「&hellip;誰のせいだと思ってるんですか」</p>
<p>「俺だろう？そんなにも好きだったとはな」</p>
<p>「&hellip;ち、違います！うぬぼれないで下さい！」<br />
<br />
真澄は腕をのばしてマヤの顔を拭う。<br />
<br />
頬に当たる指に、マヤはびくっと震え、顔を拭いてくれる真澄の手を意識して硬直する。</p>
<p>「触れたか？」</p>
<p>「&hellip;は？」</p>
<p>「柳禅は、君に&hellip;」</p>
<p>「な、なんで、鷹久さんがそんな事私にすると思うんですか&hellip;」</p>
<p>「女に手が早いと有名な男だ。そんな男の所に君がいると聞いて&hellip;」</p>
<p>あ、確かに呆れるほど女性好きな人だったなあの人&hellip;そんなに有名だったんだ&hellip;</p>
<p>「俺ははらわたが煮えくり返りそうだった&hellip;」</p>
<p>「&hellip;&hellip;速水さん、何か悪いものでも食べたんですか？」</p>
<p>「違う。俺は&hellip;」</p>
<p>言い募ろうとする真澄に、マヤはげんなりとした顔をして立ち上がった。<br />
<br />
もう、嫌だ。<br />
<br />
こんな目にあってもまだ、私はこの人のことが好きで、僅かな期待や、とんでもない誤解をしそうになってしまう。</p>
<p>「&hellip;私、帰ります。悪趣味すぎる冗談にこれ以上つきあえません。さよならっ」<br />
<br />
こんな酷い出来事、もう覚えていたくない。</p>
<p>「待つんだ、マヤ。俺も&hellip;君に話があるんだ」<br />
<br />
追い縋って腕を掴んだ真澄を、憎しみをこめて睨みつける。</p>
<p>「私は、もう何も話すことなんて何も無いです。だって、あなたは私の事なんかなんとも思ってないんでしょう？！そう言ったじゃないですか。それなのに&hellip;そうやって思わせぶりな事言ってからかうのはやめて下さい！」</p>
<p>「からかってるんじゃない。本気だ」</p>
<p>「そんな冗談&hellip;」</p>
<p>「冗談なものか」</p>
<p>「いいえ！もう騙されない」</p>
<p>「騙したりなど、しない」</p>
<p>「う、嘘」</p>
<p>「嘘なんかじゃない&hellip;」</p>
<p>そう言いながら、真澄はマヤを抱き寄せる。<br />
<br />
マヤは真澄の体温を近くに感じてもなお、信じることができなかった。<br />
<br />
それでも、愛しい人の腕に包まれる誘惑には抗えない。<br />
<br />
何も反論することができなくなり、真澄の胸に体を預けていた。<br />
<br />
<br />
&hellip;なんて、ひどい人なんだろう。<br />
<br />
こんなに意地の悪い人を、私はどうしてこんなに好きなの&hellip;<br />
<br />
<br />
髪にかかる真澄の吐息を切なく感じて、唇を噛み締める。<br />
<br />
どれだけ体が近くても、心は繋がらない。遠くて、哀しくなる。<br />
<br />
<br />
「速水さん、離して&hellip;」<br />
<br />
<br />
真澄は、腕を緩めてマヤを見つめる。<br />
<br />
吸い寄せられるようにその視線にとらわれ、噛み締めていた唇が柔らかく弛緩する。<br />
<br />
何も、考えられなくなっていた。<br />
<br />
頬を傾けて近付く真澄に、マヤは目を見開く。<br />
<br />
唇が、触れそうな距離&hellip;<br />
<br />
と、思う間もなく、真澄の伏せられた睫が視界いっぱいになった。</p>
<p>え&hellip;？！な、なんで&hellip;？！</p>
<p>「&hellip;っ、やだっ、止めてください！わ、私の気持ちをこれ以上馬鹿にしないで！」</p>
<p>「マヤ！」</p>
<p>「やぁーだぁあーーーーっ！嫌い！！」 <br />
　 <br />
真澄の手を払い、その体を突き飛そうとするが、ひょいと身をかわされてしまい、ひっくりかえったのはマヤのほうだった。 <br />
　 <br />
「ひゃあっ」</p>
<p>「おいおい、ちびちゃん&hellip;何をやってる」</p>
<p>笑いながらマヤの腕をつかんでひき起こそうとする真澄の手を、マヤは払いのけて睨み上げる。</p>
<p>「なにやってるって！速水さんがよけるからじゃない！大っ嫌い！」<br />
　 <br />
「意固地だな」</p>
<p>「大っ嫌いっ！速水さんなんて！大嫌いーーー！」 <br />
　 <br />
「大嫌い？大好きだろう？」</p>
<p>「はっ？はああっ？！何言ってるんですか！大っ嫌いです！顔も見たくない！！」</p>
<p>「なぜ？」</p>
<p>「なぜって！冗談でキ、キスとかするし！そんなふうに平然とあたしをからかうし！」</p>
<p>「仕方ないだろう？冗談でキスしたんじゃないんだからな。本気だと、言っているんだ&hellip;マヤ」</p>
<p>「きゃあああああーーーやだーーーっ」</p>
<p>「お、おい、マヤ！」</p>
<p>逃げるマヤに、なんとか話をしようと追いかける真澄。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
二人の様子を物陰で見ていた爺やは思いました。<br />
<br />
坊ちゃま&hellip;よもやこれは&hellip;取引不成立になるのでしょうかの？！</p>
<p>「もしもし、警察でございますか？大変です！背の高い中年男が嫌がる女の子にいかがわしい行為をしようとしています&hellip;！」</p>
<p>「おいおい&hellip;それ洒落にもならんから。通報はやめとけ」<br />
<br />
「ああ、鷹久様、お戻りになられたのですか。あー、はらはらいたしますなぁ！爺も、学生の頃をほんのり思い出してしまいますぞ、いや青春の一ペエジでございますな。それより、朗報でございますよ！鷹久様！」</p>
<p>「もしかして、俺が打診してきた事に関係ある？さっきは、さんざんごねてつっぱられたんだけど。もしかしてこっちの言い分を呑む気になったのかな」</p>
<p>「ええ。先程、近々に会合の場を設けたいと」</p>
<p>にやりと、笑いあう。</p>
<p>「ふふっそうか、じゃあ、いよいよ&hellip;」</p>
<p>「は、いい風向きになりましたな、坊ちゃま。柳禅グループの総帥としてまた一歩前進いたしましたな」<br />
「うん！俺、今度こそあの人を、手に入れるんだ！」</p>
<p>爺やの物言いたげな表情をよそに、鷹久は満面の笑みを浮かべた。<br />
<br />
&nbsp;<br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>光風霄月</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E5%85%89%E9%A2%A8%E9%9C%84%E6%9C%88/%E5%85%89%E9%A2%A8%EF%BC%91%EF%BC%91</link>
    <pubDate>Fri, 19 Nov 2010 12:40:47 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>光風１０</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
<br />
<br />
<br />
数日続いた冬の雨は止み、澄み切った青空がひろがっている。<br />
<br />
目的地から少し離れたところへ車を止めて、鷹久はマヤを送り出す。<br />
<br />
「じゃあ、ここからは歩いていけるね？」<br />
<br />
「はい、送って下さってありがとうございます」<br />
<br />
「帰りは迎えに来れないと思うよ。ごめんね」<br />
<br />
「そんな！ここに送ってくれただけで充分です。じゃあ&hellip;行ってきます」<br />
<br />
「うん、頑張ってきてね！」<br />
<br />
「はい&hellip;」<br />
<br />
頑張ってって&hellip;何を頑張るって言うんだろ？<br />
<br />
争えっていう意味だったら、負けは確定しているのに。<br />
<br />
<br />
<br />
負け犬として呼び出されて行くのが怖くて、なかなか家を出ることが出来なかったマヤを、鷹久は無理矢理車に押し込めてここまで連れて来た。<br />
<br />
そうして仕方なしにとぼとぼと歩いていくマヤの背中を、鷹久は満足そうに見つめていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
マヤは緊張した面持ちで、長閑な風景にある喫茶店に向かって足を進める。<br />
<br />
木漏れ日の揺れるテラスに、マヤを呼び出したその人がいる。<br />
<br />
穏やかな日差しのなかで、美しく優美なその人が自分を待っているのがなんだか信じられない気がした。</p>
<p><br />
「あの、北島マヤです。遅れて、すみません&hellip;」</p>
<p>「いいえ、私のほうこそ、突然呼び立ててしまってごめんなさい？初めてですわね、こうして二人でお会いするのは」</p>
<p>「&hellip;&hellip;私にどんな御用なんでしょうか」</p>
<p>「まあ。そんな怯えた顔をなさらないで？すぐにお話は終わります。さあ、お座りになって」<br />
<br />
「は、はい&hellip;」<br />
<br />
「本題からはいりましょう？まずは、これをご覧になってくださるかしら？」<br />
<br />
「はい&hellip;え&hellip;これって&hellip;」<br />
<br />
これって&hellip;</p>
<p>こ、婚姻届&hellip;？！</p>
<p>ズクズクと、癒えたと思っていた傷が疼きだす。<br />
<br />
夫となる欄には、速水真澄の署名。<br />
<br />
すでに印鑑も押してある&hellip;</p>
<p>「あ&hellip;こ、この度は、ほんとに&hellip;お、おめでとうございます&hellip;！」</p>
<p>「まっ、何のことですの？」</p>
<p>血の気の引いたマヤの顔を、紫織は微笑んで見つめる。</p>
<p>「それは、わたくしが言うことです」</p>
<p>パチンとバッグの金具を開けて、万年筆を取り出しマヤに差し出す。</p>
<p>「さ、お書きになって」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;はっ？」</p>
<p>な、何を書くって&hellip;？</p>
<p>あっ&hellip;ほ、保証人とか？え、そんなの必要だったっけ？<br />
<br />
そもそもなんであたしが？<br />
<br />
なんだかわかんないけど、もう私に失うものなんて、なあんにもないんだもの。<br />
<br />
どうなったっていいんだもの。書けっていうんなら何だって書いてやるんだから！</p>
<p>「ほっ保証人の欄はどこですかっ？」</p>
<p>「まあ、ほほほっ&hellip;北島さんはご冗談がお上手ですのね」</p>
<p>「冗談？あの、私、わけがわからないんですが」</p>
<p>「あなたがお書きになるのは、ここ」</p>
<p>美しく整えられた爪先が示したのは。</p>
<p>「&hellip;えっ？」</p>
<p><br />
ここには紫織さんの名前がこれから&hellip;</p>
<p>なおも悠然と微笑む彼女の顔を見て、マヤは奈落の底に突き落とされるような衝撃を感じた。</p>
<p>ああ&hellip;わかった。<br />
<br />
知っているんだ。紫織さんは私の気持ちを。</p>
<p>だからこんな嫌がらせをしてくるんだ。<br />
<br />
私は紫織さんがいるのに速水さんに気持ちを打ち明けたんだもの。<br />
<br />
それは婚約者からすれば当然に腹の立つことだろう&hellip;</p>
<p><br />
マヤは後ろめたさにうつむいて、か細い声で紫織に謝罪をもらす。</p>
<p>「ごめんなさい&hellip;もう、速水さんにあんな事言いませんから&hellip;」</p>
<p>「あんな事って？どんな事ですの？」</p>
<p>「&hellip;&hellip;&hellip;」</p>
<p>マヤはぎゅっと、膝の上の手のひらを握り締める。<br />
<br />
紫織に責められる覚悟を決めなければならない。<br />
<br />
ここに、来る時点でそれは決めていたことだった。<br />
<br />
にも係わらず、紫織を前にすると、胸が締め付けられるように苦しくて、逃げ出してしまいたくなる。</p>
<p>「おっしゃって下るかしら&hellip;あなたはまだ真澄様のことを？」</p>
<p>「&hellip;&hellip;いいえ、そんなわけ&hellip;ないです&hellip;私は、手ひどく振られたんですから&hellip;もうあんな最低の冷血ゲジゲジなんて！」</p>
<p>「まったくですわ&hellip;血も涙もないとはあんな方を言うのでしょうね」</p>
<p>「そうよ！あんなやつ！体も氷で出来てるに違いないんだから&hellip;っあっ？わっ、すみません、あたしったらなんて失礼な事を&hellip;！冷血漢の婚約者相手にゲジゲジの悪口言うなんて&hellip;わああ、あたし何言ってんだろっ？」</p>
<p>「ふふふ、いいえ。本当のことですもの」</p>
<p>取り乱してわたわたするマヤに紫織は微笑む。<br />
<br />
花香を漂わせるように優しげな笑みに、マヤはドキリとする。</p>
<p>ああ&hellip;やっぱり、なんてキレイな人なんだろ。<br />
<br />
あたし、紫織さんに何ひとつたちうちなんて出来ないよね。<br />
<br />
それなのに、速水さんに告白なんて&hellip;ほんっとに馬鹿なことした&hellip;</p>
<p><br />
そう思ったら枯れきったと思っていた涙がまたにじんできた。<br />
<br />
惨めな気持ちで俯くと、視界に入ってくる婚姻届がぐにゃりとぼやける。</p>
<p><br />
「&hellip;当然ですよね、あなたのような素敵な婚約者がいるんだもの。あ、あたしなんかがさつで何のとりえもなくて&hellip;」</p>
<p>「そうとも、チビの豆だぬきで器量は悪いし気は短いし感情に直ぐ走って思いもかけないことをやってのけるし碌なことはしないな」</p>
<p>「ええ&hellip;そうです、そんなあたしなんか相手にするわけ&hellip;」</p>
<p>「まあ、真澄様。いらっしゃるのが遅いですわ。わたくし心待ちにしておりましたのよ」</p>
<p>「！！？」<br />
<br />
マヤは、ぽかんと口を開けた。<br />
<br />
な、なんで？！なんで速水さんが、ここに？！</p>
<p>「すみません、あなたとのお約束に遅れたことなどいままで無かったのに&hellip;」</p>
<p>「&hellip;！！」</p>
<p>&hellip;そう、か&hellip;何度もこうやって待ち合わせして二人で出かけているんだ&hellip;<br />
<br />
並んでいると、やっぱりお似合いだな&hellip;私みたいな子供の出る幕なんてないや&hellip;</p>
<p><br />
「そ、そういうわけですから、失礼します&hellip;お、お邪魔さまでございました&hellip;」<br />
<br />
みじめすぎる&hellip;もう一秒でもここに、この二人の前にいたくない&hellip;<br />
<br />
「まだ駄目ですわ！まだ、一番肝心な事をお聞きしておりませんもの&hellip;！」</p>
<p>「え&hellip;？」</p>
<p>早く、逃げたい。<br />
<br />
一緒にいることがどれだけ惨めで辛いか、きっと、この二人には知る由もないだろう。<br />
<br />
「北島マヤさん。あなたは真澄様をどう思ってらっしゃるのかしら？ちゃんとおっしゃって下さるまで、帰す気はありません」</p>
<p>笑みを浮かべる紫織と、マヤが問いかけに答えるのを硬い表情で見つめる真澄。<br />
<br />
マヤは絶望して、その残酷な二人の顔を悲痛な眼差しで見つめる。<br />
<br />
<br />
やっぱり、こんなところに、くるべきじゃなかった。<br />
<br />
呼び出されたって、断固として応じなければよかった。<br />
<br />
この二人は、私のこの気持ちを玩ぶつもりなんだ&hellip;！<br />
<br />
<br />
悲しみと滾る様な怒りがマヤの中に湧き上がった。</p>
<p>「そんなに&hellip;私を辱めたいんですか&hellip;！？ええ&hellip;ええ！そうです！忘れたくて忘れたくてたまらないのに、思い出さない日は無いくらい、私は&hellip;私は速水さんの事がまだ好きなんです！大好きなんです！だけど&hellip;！」</p>
<p>マヤはぎりぎりと奥歯を噛み締めた。<br />
<br />
まだ、まだ泣いちゃだめだ&hellip;</p>
<p>「もう過去にするつもりです。紫織さん&hellip;あなたと速水さんの間を裂こうなんてこれっぽっちも思いません。そっとしておいて欲しかったのに！なのにどうして私をここに呼び出したりしたんですか？！」</p>
<p>マヤは耐え切れずテーブルの上に突っ伏して、わっと泣き始めた。<br />
<br />
紫織は、ついと立ち上がり、そんなマヤの姿をそっと静かな目で見つめた。<br />
<br />
&nbsp;</p>
<p>「これくらいの意地悪は、させていただいてもいいと思いますのよ？真澄様？」<br />
<br />
「紫織さん&hellip;&hellip;」<br />
<br />
「真澄様。紫織は、あなたとは結婚できません。正式に、婚約破棄をいたします」<br />
<br />
「僕は&hellip;あなたが言う様な」「いいのです&hellip;！言い訳なんて聞きたくはありません。言い訳をしたいのなら、そこにいる方になさってはいがですの？」<br />
<br />
「&hellip;」<br />
<br />
「少なかれ、鷹宮家はあなたを婚約者とは認めなかったと思うのです。なぜなら&hellip;あなたは、初めから最後まで鷹宮家もその孫娘もひとかけらも大切には思っていらっしゃらなかったから。あなたは、平気で人を裏切れる人なんですものね」<br />
<br />
嘘です&hellip;あなたはとても優しかった。<br />
私が心を痛めぬよう、いつも気遣って下さった。<br />
最初から裏切るつもりなんて無かったと、わたくしは、よく知っているのです。<br />
生涯、添い遂げる相手として、わたくしを、大切にして下さった&hellip;だけど&hellip;<br />
<br />
「嘘は、ばれてしまうものなのですよ、真澄様」<br />
<br />
困ったような顔をして、紫織は微笑む。<br />
<br />
聞きたくない言葉を促して、真澄がそれに勘付いてくれるのを祈っていた。<br />
<br />
「&hellip;そのとおりですね、僕は、あなたをずっと欺いていた。お会いしているときも、仕事の事しか頭に無かった。あなたは、大事な取引先の御令嬢ですからね、失礼があってはいけないと、それだけを気にかけていた」<br />
<br />
本当の、ことを、あなたの口から聞けば、わたくしは&hellip;<br />
<br />
「僕は、あなたを、愛してはいなかった」<br />
<br />
あなたを忘れることができるのですわ&hellip;<br />
<br />
だから&hellip;そんなに申し訳なさそうな顔をしないで下さい、真澄様。<br />
<br />
<br />
「&hellip;ええ、存じています。だけど、わたくしは、あなたがとても、好きでした。でも、大丈夫&hellip;きっと忘れることができると思いますわ&hellip;さようなら、真澄様」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
約束を、したのです。<br />
<br />
どうやら、その約束が、いつか果たされる日が来るようです&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>光風霄月</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E5%85%89%E9%A2%A8%E9%9C%84%E6%9C%88/%E5%85%89%E9%A2%A8%EF%BC%91%EF%BC%90</link>
    <pubDate>Fri, 19 Nov 2010 12:31:40 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>光風９</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
<font color="#333333"><br />
<br />
<br />
「ああ&hellip;あなたは&hellip;」<br />
<br />
「思い出して、いただけました？あのときは、本当に失礼しました」<br />
<br />
「な&hellip;なぜここに？」<br />
<br />
「ぼっちゃまはずっとあなた様をストーキングし」「違う！見守っていたの！！」<br />
<br />
こほんと咳払いをする。<br />
<br />
「今日は、たまたまとおりがかったんです。あなたが、車から降りてくるのが見えて。それで、こっそり後を」<br />
「やはりストーカーですな」<br />
<br />
「ああ&hellip;うん&hellip;そうかもしれないな&hellip;」<br />
<br />
今度はあっさりと認めて、溜息をつく。<br />
<br />
「情けない&hellip;俺って、ほんと、情けない男ですよ」<br />
<br />
こそこそと後をつけるなんて女々しい真似、かっこ悪過ぎる。<br />
<br />
あの日だって&hellip;わざとドレスにワインを零したり、自分の弱さを指摘されて毒づいたり。<br />
<br />
あげく、人目のつく場所で彼女に自分の願望を押し付けてみたり&hellip;<br />
<br />
彼女の前で、いいところをみせたためしが無い。<br />
<br />
<br />
「わたくし&hellip;わたくし、思い出したのです。あなたと、あのパーティよりも前にお会いしたことがありました」<br />
<br />
「え&hellip;覚えていたんですか？」<br />
<br />
男の顔が赤らんだような気がして、紫織は少し心が解ける。<br />
<br />
「そうですよね&hellip;嫌な思いをさせてしまったんですから、覚えていて当然です」<br />
<br />
男にとって、それはひどく苦い記憶だったのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
悲しみに包まれた会場を抜け出して、建物の脇にある木立の影から裏手にある川辺に下りる。<br />
<br />
細く浅い川の水が、軽やかな音をたてて流れていくのを、鷹久は瞬きもせずに、じっと見つめていた。<br />
<br />
<br />
後ろで草を踏みしめる音がしたことに、舌打ちしたい思いで少年は振り返った。<br />
<br />
きっと自分を連れ帰りにきた大人だろうと思っていたが、違った。<br />
<br />
<br />
歳は十前後だろうか。<br />
<br />
透けるような白い肌と大きな黒い瞳、艶のある綺麗な黒髪。<br />
<br />
フリルの付いた黒いワンピースに黒いハイソックス。<br />
<br />
葬制にふさわしい色ではあったが、それはどこか衣装じみて見えた。<br />
<br />
きっと、まわわりの大人たちが彼女のために誂えた、完璧なコーディネイト。<br />
<br />
<br />
「&hellip;だれ？」<br />
<br />
「わたしは&hellip;たかみやしおりです」<br />
<br />
たかみや&hellip;なんか、お人形さんみたいな子だな&hellip;<br />
<br />
「あの、大丈夫&hellip;ですか？」<br />
<br />
「え&hellip;？」<br />
<br />
「大人の人達が、みんな、あなたが気の毒だって。何にも無くなってしまったって、言ってたから」<br />
<br />
少年は、くっと頬を引き攣らせた。<br />
<br />
紫織はそれに気をかけることなく続ける。<br />
<br />
「だから、わたしに、できることがあれば、何か&hellip;」<br />
<br />
「っ&hellip;あんたに、できること&hellip;？」<br />
<br />
「ええ、たとえば、一緒に美味しいディナーをたべたり、それから、一緒に何か、楽しいことをするの。そうすれば」<br />
<br />
「そうですね、あなたは何でもお持ちのお嬢様だもんね。そうして持っていると思っていたものが、全部消えて無くなるなんてこと、考えもしないんだろ」<br />
<br />
「&hellip;！！」<br />
<br />
明らかに傷ついたという顔をして、少女は目に涙を溜める。<br />
<br />
「ごめんなさい！ごめんなさい！そんなつもりではないの&hellip;！怒らないで&hellip;」<br />
<br />
「じゃあ、どういうつもりだったんだよ？！こんなところにまでついて来て、俺を哀れんでいるふりをするなよ！」<br />
<br />
いまにも泣き出しそうな顔をして、彼は喚き散らす。<br />
<br />
「みんな&hellip;みんな、本当は&hellip;ざまあみろって、おもってるんだろ？！自分の会社が無事ならそれでいいって思ってるんだろ？関係ないって思ってるくせに！俺がこれからどうなるかなんて、どうだっていいくせに！」<br />
<br />
「っ&hellip;」<br />
<br />
「あんた、なんでもしてくれるっていうんなら、俺の父親返してくれよ！俺の母親返せよ！できねーだろ！できもしないくせに、その場限りの適当な事、いうんじゃねーよ！！」<br />
<br />
力の限り叫んでから、彼はとうとうその場に泣き崩れた。<br />
<br />
張り詰めていたものが切れたように、嗚咽も隠さずに地に膝をついて泣く姿に、紫織はどうしていいか分からなかった。<br />
<br />
<br />
そのまま、何も告げられず、声を聞きつけた大人たちがそこにやってくるまで、ただ側に佇むしかできなかったのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
マヤを柳禅の屋敷に運び入れ、主治医に見せる間も、紫織は鷹久と一緒にその側についていた。<br />
<br />
どうやら命に別状はないとはっきりすると、紫織は再びへなへなとその場に膝をついた。<br />
<br />
<br />
鷹久がいたわるように肩を抱いて支えると、紫織はぽつりと呟いた。<br />
<br />
「わたくし&hellip;本当は気がついていたのですわ」<br />
<br />
「&hellip;何をです？」<br />
<br />
鷹久が優しく尋ねると、紫織は大粒の涙を隠すようにして顔を両手で覆った。<br />
<br />
「真澄様が、私を愛してなど、いないことを」<br />
<br />
「&hellip;ええ」<br />
<br />
そう、俺が教えたじゃないですか。<br />
<br />
「それでも&hellip;わたくしは、あの方が好きだった&hellip;」<br />
<br />
「ええ、知っています&hellip;」<br />
<br />
「とても&hellip;とても、好きだったんです&hellip;！」<br />
<br />
泣いて震える肩を引き寄せて、鷹久はそっとその頭を撫でる。<br />
<br />
「わたくし&hellip;あきらめなくては、ならないのでしょうか。もう、どうすることも、できないのでしょうか&hellip;」<br />
<br />
「あなたの価値が分からないなんて、そんな男、早く忘れてしまったらいいんですよ」<br />
<br />
「&hellip;っ&hellip;そんなこと&hellip;っとても、できそうに、ありませんわ&hellip;」<br />
<br />
<br />
「&hellip;あなたの悲しそうな顔を見ると古傷が痛みます。あのときから、女の子は、絶対に傷つけてはいけないっていうのが俺の信条になったくらいです&hellip;俺は、ずっと謝りたかったんです。あなたにひどいことを言ったことを&hellip;あれは、ただの八つ当たりだったから」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
<br />
「でも、できなかった。あなたが速水真澄といる姿を見て、俺は、また同じ事をしてしまったんだ」<br />
<br />
嫉妬だった。苛立ちが先立って、どうしてこんなに腹が立つのか考えたとき、はっきりと、そう分かった。<br />
<br />
ああ、俺は&hellip;この人がどうしても欲しい。<br />
<br />
あの、残酷なくらい無神経で無垢な存在に初めて会ったときから、ずっと意識していたのだろう。<br />
<br />
「だけど、いくら相手を責めたって、心は軽くなんてならないんです。わかりますよね？」<br />
<br />
<br />
紫織は、黙ったまま、涙をこぼし続ける。<br />
<br />
<br />
「約束します。あなたが、立ち直れるように力を尽くすことを。それができなかったら、俺はもう死んだっていい」</font><br />
<br />
<br />
<br />
<br />]]>
    </description>
    <category>光風霄月</category>
    <link>https://mameruku.en-grey.com/%E5%85%89%E9%A2%A8%E9%9C%84%E6%9C%88/%E5%85%89%E9%A2%A8%EF%BC%99</link>
    <pubDate>Fri, 19 Nov 2010 11:59:52 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">mameruku.en-grey.com://entry/36</guid>
  </item>
    <item>
    <title>光風８</title>
    <description>
    <![CDATA[<font color="#333333"><br />
<br />
<br />
<br />
「明後日も、お会いになるんでしょう？本当に、仲がよろしくて羨ましいくらいですわ」<br />
<br />
ドレスを見立てた後で屋敷へ戻る車に乗る紫織に、付き添い人が微笑む。<br />
夢のように幸せな時間を過ごしているだろう女性へ向けられた羨望を、紫織は軽く口の端をあげてかわす。<br />
<br />
あなたが思うほど、真澄様はわたくしを想って下さってはいないかもしれませんわ&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
いつも紫織をいたわる真澄の優しさに、言いようの無い違和感を感じ始めたのはいつからだろう。<br />
<br />
理由を考えることはあったが、それを信じたくなかった紫織は、その違和感から目を背け続けてきた。<br />
<br />
<br />
けれども、昨日。<br />
<br />
待ち合わせの場所にいつもより早く着いた紫織は、それよりも早く真澄がその場所に着いているのを見て頬を染める。<br />
<br />
「真&hellip;」<br />
<br />
呼びかけながら近付こうとした足が、ぴたりと止まる。<br />
<br />
見たことの無い辛辣な顔をして見下ろした真澄の視線の先に、一人の女性。<br />
少女の面影を残したその人が誰なのか、紫織はよく知っている。<br />
嘲る真澄にむかって、それでも彼女が声を張り上げて言い争う、その内容に衝撃を受けたのではない。<br />
<br />
真澄様に、告白？<br />
<br />
ああ、だけど&hellip;<br />
<br />
真澄様は、あの子を拒んだ。<br />
<br />
あんな真澄様、初めて見た&hellip;<br />
<br />
あんなに冷たい言葉、聞いたことがない。<br />
<br />
&hellip;いいえ、あれが、真澄様の、本当の顔なのだとしたら&hellip;？<br />
<br />
わたくしには、やはり、偽物の顔しか見せては下さっていなかったの？<br />
<br />
<br />
だけど&hellip;わたくしだったら&hellip;？真澄様にあんなふうに拒絶されたら&hellip;<br />
<br />
<br />
<br />
紫織は動揺を押し殺して、北島マヤが去ったあとで、今来たというように真澄の前に姿を現した。<br />
<br />
真澄は何事も無かったようにいつもと変わらない様子で紫織と会い、食事を共にしてくれたが、紫織の不安は大きくなるばかりだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
物思いに沈んでいた紫織は、はっと息をのんだ。<br />
車窓の外に、その姿を見た気がして、人通りのほとんど無い薄暗い歩道を振り返る。<br />
<br />
あれは&hellip;北島マヤ&hellip;！<br />
<br />
迷う間もなく、口にしていた。<br />
<br />
「&hellip;止めて。車を、止めて頂戴！」<br />
<br />
「どうされたのです、紫織様？」<br />
<br />
「わたくし&hellip;ここで降ります。一人で帰れますから、車はそのまま屋敷に戻っていて結構です」<br />
<br />
「なんですって、いけません！こんな寒い中歩かれてはお体に&hellip;紫織様！」<br />
<br />
「大丈夫です、ここから屋敷まではそれほど遠くないでしょう？少し&hellip;歩きたいのですわ」<br />
<br />
<br />
<br />
あの子&hellip;なんだか、様子がおかしかった。<br />
<br />
今も、真っ青な顔をして、ふらふらとおぼつかない足取りで公園へ入っていく。<br />
<br />
紫織は、相手に見つからないようにそっとその後をついて行った。<br />
<br />
人影の無い、暮れていくしんと寒い公園は、どこか寂しい雰囲気だ。<br />
<br />
&hellip;こんなところに、何の用が？<br />
<br />
<br />
<br />
　　わたくしだったら&hellip;真澄様にあんなふうに拒絶されたら&hellip;<br />
<br />
　　　　死んでしまいたいと、思うかもしれない&hellip;<br />
<br />
そんな可能性に気がつき、紫織はぞくっとして我に返った。<br />
<br />
考えに気をとられたわずかな間に、マヤの姿を見失ってしまったのだ。<br />
<br />
慌ててあたりを見回すと、子供の遊具がある広場が見えた。<br />
<br />
ふたつあるうちのひとつ、ブランコの椅子が乗っている人もいないのに揺れている。<br />
<br />
揺れている、その下に&hellip;<br />
<br />
「&hellip;っ」<br />
<br />
誰か、倒れている。<br />
<br />
「き、北島、さん？」<br />
<br />
恐る恐る近付いてみる。砂の上に散った黒髪。小柄な体。<br />
<br />
地面に頬をつけて倒れている女性は、間違いなく、あの北島マヤだった。<br />
<br />
紫織はその人のそばへ駆け寄る。<br />
<br />
「北島さん、北島さん！！しっかりなさって下さい、北島さん！」<br />
<br />
いくら呼びかけて揺すっても、体はぴくりとも動かず、目を開く気配も無い。<br />
<br />
まさか。まさか、そんなこと。<br />
<br />
「そんな&hellip;い、いや&hellip;いやです、こんなこと&hellip;」<br />
<br />
体の力がくたりと抜ける。<br />
<br />
<br />
「どうしたんです！？紫織さん」<br />
<br />
「いや&hellip;いや&hellip;！」<br />
<br />
「大丈夫、落ち着いて&hellip;ん、この子誰？なんで、こんな所で寝てるんだ？」<br />
<br />
「ぼっちゃま、すぐそこで、こんなものを拾ったのですが&hellip;」<br />
<br />
「なにこれ？」<br />
<br />
「どうやら、睡眠薬のようです。中身は空っぽですので、もしかすると全て一度に飲んでしまわれたのかもしれないですぞ」<br />
<br />
「え、それは大変じゃないか！！きゅ、救急車を！今すぐ救急車を呼ばなくちゃ！！」<br />
<br />
大慌てで携帯電話を出したその手を、紫織の手がぎゅっと掴む。<br />
<br />
「い、生きているのですか&hellip;」<br />
<br />
「ええ、安心してください。今、救急車を呼びますから」<br />
<br />
「&hellip;っ駄目！駄目です！救急車はお呼びにならないで！」<br />
<br />
「はっ？なんで？」<br />
「そうはまいりません。急いで手当てをしなければ手遅れになりますぞ」<br />
<br />
「っ&hellip;この人の顔に、見覚えはありませんか？！」<br />
<br />
「&hellip;うーん？&hellip;ないなあ」<br />
「ああ、そういえば&hellip;！わたくしのいとこの妻の妹の旦那の姉の友人の母親が飼っておりましたポメラニアンににております」<br />
<br />
「っ北島マヤですわ！紅天女を奪い取った女優、北島マヤです！」<br />
<br />
「ああ！そういえば！」<br />
「して？なんで紅天女がこんな所に？」<br />
「とにかく車に運びましょう。体が冷え切っています」<br />
「ふむ。脈拍は異常なし。急いで屋敷に戻って主治医に見せましょう。あなた様は、この方のお知り合いなのですかな？」<br />
<br />
「いいえ&hellip;いいえ！私はこの方と面識はありません！だけど&hellip;この方がとても、おつらい目にあったのを、知っています&hellip;このうえ、こんな事が世間に知られることになったら、立ち直れないのではないかと思うのです&hellip;」<br />
<br />
紅天女という役を得た彼女が、なぜこんな事をしたのか、マスコミに知られたら詮索されて大騒ぎになるかもしれない。<br />
<br />
何より、真澄様に、知らせたくない。<br />
<br />
北島マヤが、自殺未遂をしたと知ったら、真澄様は&hellip;<br />
<br />
<br />
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<br />
紫織をじっと見ていた男は、僅かに瞳に影を落とした。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;ふぅん&hellip;そっか」<br />
<br />
「あ&hellip;あの、お願いが&hellip;あるのです&hellip;」<br />
<br />
「ああ、大丈夫。この子のことは俺が責任をもって保護します。それより&hellip;」<br />
<br />
じっと、まっすぐに紫織を見つめる。<br />
<br />
「あなたは、覚えていませんか？」<br />
<br />
「何をです？」<br />
<br />
「俺の、顔を、です」<br />
<br />
この方の、顔&hellip;？<br />
<br />
紫織は、そのときになって初めて、その男性の顔をはっきりと見た。<br />
<br />
外灯がまばらな薄暗い公園で、少し苦笑いをしているその人に、紫織ははっと息をのんだ。<br />
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あれは、初めて真澄に伴われてのパーティーだった。<br />
<br />
「おっと」<br />
「きゃっ」<br />
「すみません！うわあああ、どうしよ、どうしよ！すみません！弁償します、新しいドレスを」<br />
<br />
大慌ての男、ドレスをワインで赤く汚されてしまった紫織。<br />
<br />
「紫織さん、どうしました？」<br />
<br />
後ろを向いてほかの招待客と話をしていた真澄は男の大声に気付き、立ち竦む紫織を覗き込んだ。<br />
<br />
「あ&hellip;あの、この方とぶつかってしまいましたの。それで、少し」<br />
<br />
「なんてことだ&hellip;さ、紫織さん、こちらへ。新しいドレスを用意させますよ」<br />
<br />
「まっ、お優しいのですね。紫織は&hellip;とても嬉しいです&hellip;」<br />
<br />
紫織にワインをかけてしまった男は、目をむいて二人の前に立ちはだかった。<br />
<br />
「待て、待て、待て！！僕が、ドレスを弁償すると言っているんです！僕が汚してしまったんですから、当然のことでしょう？！」<br />
<br />
「どうぞ、お気になさらないで。こういった場では時折あることですわ」<br />
<br />
「さあ、紫織さん、一旦ここを出ましょう」<br />
<br />
「ごめんなさい、真澄様。せっかくの場ですのに&hellip;」<br />
<br />
「何を言うんです。僕のほうこそ婚約者として当たり前のことができませんでした」<br />
<br />
「え&hellip;？」<br />
<br />
「あなたを守ることが、できなかった。この身を挺して僕がワインに濡れればよかったのです」<br />
<br />
「まっ、そんなこと&hellip;」<br />
<br />
会場から廊下に出ていく二人を、男は追いかける。<br />
紫織を備え付けの椅子に座らせて、ドレスの染みが隠れるようにジャケットをかけてやる真澄を、男はじっと見つめた。<br />
<br />
「ここで待っていなさい、今、人を手配します」<br />
<br />
「はい&hellip;」<br />
<br />
<br />
真澄が去った後で、男は紫織の側に歩み寄る。<br />
<br />
「あーあ、目をハートにしちゃっておいたわしい。いまのが婚約者？嘘でしょ？」<br />
<br />
「え&hellip;あ、先ほどの方&hellip;」<br />
<br />
紫織が目を上げると、男は露骨にむっとした顔をしていた。<br />
<br />
「あの男は、あなたを好きなわけではないでしょう？」<br />
<br />
「&hellip;えっ？なんですって？！」<br />
<br />
「意に染まらぬ結婚であなたが不幸になるのが分かっているのに、それを止めずにいるなんて馬鹿げたこと&hellip;俺にはできないよ」<br />
<br />
「言っている意味が&hellip;わかりませんわ」<br />
<br />
「あれ？まさか、恋愛している気になっているんじゃないだろうね？あの男は、あなたの家柄を大切に思っているだけで、あなたを大事に思っているわけじゃない。そんなことも、理解できないの？」<br />
<br />
「あ、あなたには何も誇れるものがないのではなくって？！わたくしにはあります！人を愛するということが、どれほど素晴らしいことか知っていますの！そんな感情も持っていないあなたに、そんなことをいわれる筋合いはわたくしにはありません！」<br />
<br />
明らかにカチンときた様子で、男は紫織に食って掛かる。<br />
<br />
「そうですね、あなたは何でもお持ちのお嬢様だもんね。そうして持っていると思っていたものが、全部消えて無くなるなんてこと、考えもしないんでしょうね、あなたは」<br />
<br />
紫織は男の声に怯みながら、何かに気付く。どこかで聞いたことがある気がしたのだ。<br />
<br />
「あ、あなた&hellip;」<br />
<br />
泣き声。重く圧し掛かる罪悪感。蘇ってくる記憶に紫織は身を震わせた。<br />
<br />
「そうですよ、あなたの言うとおり、僕には何も誇れるものがない！」<br />
<br />
大声をはりあげて、男は紫織に宣言した。<br />
<br />
「だから&hellip;！俺は、絶対、あなたと速水真澄との結婚を阻止してやる&hellip;！」<br />
<br />
「ぼ、ぼっちゃま、何をおっしゃるのです！」<br />
<br />
「爺は黙ってろ！僕は、大都を&hellip;鷹宮の家をつぶしてでも、必ずあなたを速水真澄から奪ってみせる！」<br />
<br />
「なっ&hellip;」<br />
<br />
いきなりの思いもよらない告白に、紫織は言葉が出ない。<br />
そこへ丁度、紫織を迎えに来た使用人達が鷹久の発言を聞いて騒ぎ立てた。<br />
<br />
「な、なにを言っているんです！」「この人を、誰か追い出して下さい！警備員を呼んで！」<br />
「紫織お嬢様、さ、こちらへ。お召し物の準備が整っております」<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;ええ&hellip;&hellip;真澄様は&hellip;」<br />
<br />
「それが&hellip;急な御用事ができたとかで、社に戻られてしまったんです。こんな時に側に付いていられないなんて紫織さんには大変申し訳ないと、気にしてらしたのですが&hellip;」<br />
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「そう、ですの&hellip;」<br />
<br />
今の方の言葉を、真澄様は聞かなかったのね&hellip;<br />
<br />
<br />
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&hellip;わたくしを、真澄様から奪う&hellip;？<br />
鷹宮を潰してでも&hellip;？<br />
<br />
<br />
それとも、まだ、わたくしを、恨んでいるから&hellip;？<br />
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    <pubDate>Fri, 19 Nov 2010 10:50:09 GMT</pubDate>
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