忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

海の戯れ





真っ青な空の中心で、真夏の太陽がギラギラと眩しく照り付けている。
肌を刺すような日差しに、真澄は空を見上げた。
彼女の肌をこれ以上ローストにされる前に、日陰に逃げ込ませなくては…。
気持ちよさげに浮き輪に乗って波間で揺れるマヤの後ろにそっと泳いでいくと、
気づかれないようにその手前で海中に潜る。

「きゃ…きゃああああ!」

ざぱーん!と派手な水飛沫をたてて、マヤの体が海に投げ出される。
海のカップル定番の浮き輪ひっくり返し…。
足の立たないところで浮き輪を海の中からぐるんとひっくり返されて、
マヤは溺れそうになり咄嗟に真澄にしがみついた。
「けほっ、けほっ…何するのっ!!速水さんの馬鹿っ!」
「ははははは!ぼんやりしてるからだ、ちびちゃん」
「もうーっ!速水さんの意地悪っ!!」
「そんな事言っていいのか?手、離すぞ?」
「わわっ、やだっやめてくださいよっ」
……第三者が聞けば脱力して呆れたくなるような定型的な会話を交わしている間も
じりじりと灼熱の陽が二人に照りつけてくる。

「ちびちゃんそろそろ上がらないか?日差しがかなり強くなってきた」
「うん。ちょっと泳ぎ疲れたし、お腹も減ったな」
「ああ、戻って昼食にしよう」
浮き輪を腕の下に通して海面で揺れる体を真澄に浅瀬まで引っ張ってもらってご機嫌のマヤ。
「うふふふっらくちんらくちーん」
「ふっ、油断していると離すかもしれないぞ?」
「それで沖に流されたら速水さんのせいですよ~」
「心配ない、そしたら一緒に流されてやるよ、ちびちゃん」
……やがて水底の砂に足が付くようになり、先を歩く真澄の背中を見てマヤは声を上げる。
「うわあ、速水さん、焼けましたね」
「ちびちゃんこそ、女優がそんなに焼いていいのか?」
「いいんだもん!どーせしばらくはお仕事お休みだし」
「怠けているとあっという間に世間から忘れられて干されるぞ」
「誰のせいだと思ってるんですか!速水さんが交際宣言なんてしなかったら
 こんなふうに隠れなくったってよかったんですよ!」

世紀のバカップル…もとい、思いがけない取り合わせのカップリングに
マスコミは湧き立ち、連日のように記者が押し寄せ付きまとわれてデートもままならない。
ウンザリとした二人はほとぼりが冷めるまでプライベートビーチに避難をしていたのだった。

「小麦色の肌も悪くは無いが、ちゃんとケアしないとシミになるぞ」
「まだ若いですからチャンとすぐに元に戻りますよーだ。
 それより年寄りで代謝の悪い速水さんのほうが切実なんじゃないですかあ?」
「誰が年寄りだ?俺はまだ30代なんだぞ、まだ20代に見えると言われている位だ」
「へ、へええ?誰にそんなこと言われるんですか?もしかして…それって女の人?」
「む?嫉妬してるのか?」
「!違います!そんな視力の悪い人ってどんな人かと…」
「くっくっ、分かってるよ。単なる社交辞令だってこともな」
「そうですよね」

くるりと回れ右をして、マヤはばしゃばしゃと足をあげて海辺を走り出す。

「…おいおい、ちびちゃん…戻るんじゃなかったのか?」
「気が変わったの!もっと遊ぶんだもん!」
「遊ぶんだもんって…君は子供か?」
「どーせ子供ですよ!速水さんに社交辞令言えるような大人の女の人とは違って!」
「ぷっ、なんだ、まだ気にしてるのか?」
「してません!」
「おい、ちびちゃん!本当に戻らないのか?」

飛沫を上げながら浮き輪を抱えて海へ戻っていくマヤを、
まったく仕方ないな、と苦笑しつつ真澄は彼女を波間に追いかけたのだった。


**********


「うわーん、ひりひりするー!痛いー!」
別荘に戻ったその夜、マヤは火傷の様に赤くなった肌の痛さを持て余して喚いていた。
タオルを巻いた氷枕をマヤの背中に当ててやりながら真澄は呆れ声を出す。
「だから言っただろう、早めに切り上げておけと」
「…ううう、速水さんは痛くないんですか?」
シャツから見える腕や首筋は、ムラ無く綺麗にブロンズ色に焼けている。
そんな真澄の肌をマヤは羨ましげに見つめる。
自分は赤くなって皮がボロボロ剥けてくるのにこの違いはなんだろう…。
「俺は君ほど柔な肌じゃないからな。まあ明日はおとなしく日陰で過ごすんだな」
「ええー!せっかく海なのにそんなのもったいない…遊び倒しますよ明日も速水さんと海で!」
「…まったく…懲りない奴だな、君も…」



二人のハネムーン予行演習は明日も続く…



拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © mameruku.gejigeji : All rights reserved

「mameruku.gejigeji」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]