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琥珀の秋月





暗い夜の森の中で、

あなたは私を見つけられる?








「いた…っ」

裸足で枯葉の上に寝転がったマヤは、途端に小枝の先で踝を刺してしまい声を上げた。

目を上げれば、鬱蒼とした木々の向こうに、濃厚な群青色の空が見える。

月さえも、自分を見てはくれない。孤独。

こうしていたら、誰も私の存在を気にかける人はいないんだなあ。






ばさばさばさばさ………

風が、枯れて力を失くした葉を木々から引き離して空中に舞い上げる。

ひととき空を彷徨ったあとで、ゆっくりとした動きで

マヤの上に、かさりかさりと、乾いた音を立てながら折り重なっていく。


このまま、葉屑に塗れて地と同化してしまえばいいのに。

そうしたら、ここの精霊にでもなれるだろうか?土の精とか。

…私…ドジで頼りないからそんなたいそうなものには……まず、なれないだろうな。

せいぜい、そこに生えてる木の肥やしくらいなもんかも?


がさり、と起き上がって肩の力を抜く。




「ふぁ…ふぇっくしょん!!」


ああ、現実逃避も飽きたなあ。



暗くなってきちゃったし、肌寒いし、そろそろ、帰ろう。



うん…でも…もうちょっとだけ…もうちょっとだけこうしていようかな……





…あ、風が、止んだ?

「盛大なくしゃみだな。何してるんだ?」

なんだ、防風壁かあ。

「なんだ、速水さんかあ…」

「なんだとは、なんだ。いつまでここにいる気だ?」

「うーん?できたら一晩中でも」

「馬鹿な…こんな鬱蒼とした林の中でいったい何しているんだ?」

「えーと、『孤独』の練習です」

「それはつまり…誰も来ないような場所で独りを知る練習しているというのか?」

「だって。部屋にいてもぜんっぜん雰囲気でないんだもの」

「それで、ここならいいわけか…いったい次の役柄はどういう役なんだ?」

「………」

「まあ、いい。俺はこんな所で一晩過ごす気はない。さ、帰るぞ」

「…速水さん」

「なんだ?」

「私が部屋にいないの、いつ気が付いたの?」

「うん?ついさっきだが?」

「きっと、一晩中かかっても速水さんは私の居場所なんて分らないと思ってたから。 いなくなったのにだって気が付かないんじゃないかってそれで…」

「それで、こんな屋敷裏の林で演技の練習か?」

「…それ嘘です。本当は拗ねてただけ」


「なんだって?」

「なんでもありませーんっ。いー…よいしょっと!速水さんにおんぶっ」

「わ、こら、急に飛び掛るな」

「きゃああ!」

勢いあまって枯葉の積った黒土の上に倒れこむ。
マヤは前のめりに倒れた真澄の背中の上で、ぷんすかふくれて文句を言った。

「何してるんですかっ」
「…それは俺の台詞じゃないか?」
「駄目ですよ、しっかりおぶってくれなくちゃ」

やれやれといった感で、真澄は起き上がりマヤの体を引き起こす。
そのまま、その体を両腕に抱えあげて横抱きにすると、
薄暗くて分りにくかった彼女の顔を見て笑った。

「背負うよりこっちのほうがいいな。君の顔がよく見える」


マヤはすっかり機嫌を良くしてにんまりとした。

「ありがとう、速水さんっ」

「何がだ?」

「迎えに来てくれて。よくここがわかったね」

「まったく…君は…いつまでたっても子供みたいだな」



空にはほんのり赤みのある透明な月が、顔をみせていた。

いつも、見つめていて欲しい。ずっと、気にかけていて欲しい。
そんな我侭も心地がいい、秋さぶ日の宵だった。













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