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「ええ、条件的には大都よりもはるかに良い筈です。あんな冷血な男に大事なお孫さんを嫁がせるなんてまったくもって問題外です。ええ、会いましたとも、予想以上に愚かな男でした。紫織さんを幸せに出来るのは、有り余るほど愛と金のある私以外にはいないでしょうね」
爺やの懸念どおり、鷹久の話の中心は鷹宮グループの買収話ではなく、紫織の婚約に関することだった。
「婚約を阻止したくて大都の買収を考えたこともありました。そうして速水真澄を社長職から退け、あなた方の興味を失わせようと思っていたのです。が、それよりも僕は、いずれ、うちの経営コンサルタントに速水真澄を引き抜く事を考えています。恋敵としては愚かな男ですが、柳禅グループの要人に彼ほど適した有能な人間はいませんからね」
それでも要所要所は捉えているようなので、良しとしていいだろう。
「む…ぅ…」
会社の「頭」と言うよりは、「チャら男」という言葉が当てはまりそうなその男を、鷹通グループを担ってきた老翁は品定めするように見据える。
「会長…まさか、受ける気ではないでしょうね?」
ひそひそと、傍らの重役の一人が身を寄せて囁く。
「いけません!社の命運を好きにもてあそばれた上、この上、紫織様までも…愚劣な若造に屈するような真似はおやめ下さい…!」
「そうです、それに紫織様は、誰が見ても大都の若社長にぞっこんではないですか。そう簡単に話を聞き入れていただけるとは思えません」
後ろに控えていた叔母までもが口を揃える。
美しい孫にさほど靡かなかった速水真澄だったが、そんな冷血な男でも紫織が慕っていたのを知っている。
大都との縁談が持ち上がったのとほぼ時を同じくして、柳禅も紫織の縁談相手として挙がってはいたが、速水英介の持ちかけた交渉条件と圧力に柳禅の名は立ち消えた。
(鷹宮の…柳禅に気を許してはならんぞ、あれはここ数年で急激に成長しすぎている。聞けば、総帥はまだ経験も浅い若造じゃないか。闇雲に駆けていずれ失速するのは目に見えている。ここは、うちと提携しておいていずれ鷹宮を超える力を持つべきではないかね?)
英介の言葉に頷き、どちらが将来性がある男かと問われれば、その時点で真澄に軍配が上がるのは当然だった。
そうして、それが最善と信じて、鷹宮は柳禅からのアプローチは歯牙にもかけなかったのだ。
大きすぎる勢力は、身を滅ぼしかねない。
それを鷹宮は、昨今では痛切に感じていた。
がらがらと、積み木が崩れるように、自分の与り知らない所で、手を広げた場所が崩壊しているのだ。どうにかして食い止める手段を打たなければ。
今となっては、大都など足元にも及ばない飛躍を遂げている柳禅との繋がりを、ここで頑強なものにしておきたい…
だが、そう易々とこんな若造の思う侭になぞさせんぞ…幸い、こいつはうちの紫織を気に入っているようだ。まずは身内から絡めとってやろう…
暫しして、呼び寄せていた孫娘が付添を伴ってやってくると、「鷹宮の会長」の顔を潜め、「孫思いの年寄り」の様相で告げにくそうに縁談話をもちかける。
「ああ、紫織…おまえに来てもらったのは他でもない、おまえの身辺に関わる大切な話があってのことだ。おまえには申し訳ないが、速水家との縁はやはり無かったことにしてもらいたい…」
「ええ…わかりましたわ、お爺様」
意外にも、取り乱すことなく静かだ。落胆をしているだろう孫に、さらに言い募る。
「それが、おまえのためでもあると踏んでのことだ。ああ…それよりもだ、予てから伝えていた柳禅との縁談の話を進めたいとかんがえている。もしおまえの気が進まないのなら断ってもいい…だが、彼は本気でおまえを愛すと…」
さあ、どうやってこの孫にこの縁談を言い含めようか…やはりここは愛情に訴えるのがいいか…?
そんな画策を巡らせる前で、卓の茶をひっくり返しながら鷹久がやおら勢い良く立ち上がった。
「し、紫織さん!!お、俺、あなたのためにここまで頑張ってきたんです!だから、約束、守ってくれますよね?紫織さん…!」
「そう、みたいですわね」
たおやかに、花が開花するような微笑みで自分を見る紫織に、鷹久は頬を崩す。
「し、紫織しゃん…」
「ありがとう…紫織はとても嬉しいですわ」
「む…?!約束とは何だ?お前達、これが初めて会うわけではないというのか?!」
「ええ。お爺様、真澄様との婚約は、ちょうど破棄させていただこうと思っていたところでしたの」
「!そ、そうか、そうか…!いや、それならば話は早い!」
「それで…紫織は、ぜひこのお話お受けしたいのですけれど」
「…!?」
「殿方には愛すより、愛されろって言うそうですから。私も、自分のすべき事をして気持ちの整理はついていますわ」
鷹久に向かって紫織はふふっと微笑み、その頬をほんのり染めて言った。
「それにわたくし、初めてあなたに会った時、子供ながら何かを感じていたのかもれません。ふふ、一目惚れって、あるんですのね?」
絶対に猛拒否すると思っていたものを、いともあっさり受け入れられて、そこにいる誰もが驚きに目を瞠った。
「し、紫織…おまえ…?」
「ま、まーじーーでーーー!!!!?」
「よかったです!よかったですなぁ!坊ちゃま!!」
爺やと抱き合って感涙を流す鷹久がおかしくて、紫織はころころと笑った。
「…本当にいいのか?この男で…」
苦労するかもしれんぞ…?という祖父の不安げな声が、また、可笑しい。
自分で勧めておきながら、何をおっしゃるのかしら、お爺様ったら…!
「いいの。この方が、いいんですの」
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