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光風3





目が覚めたらやっぱり知らない場所だった。
煌びやかな装飾とか高価そうな調度品とか。

も、どうでもいい。



「お着替えとお食事をお持ちしました」
マヤが起きたのを見計らったかのように、しずしずと部屋に年配の女性が入ってきた。
「は?はあ…あのお気遣いなく…」
メイド服などは着ていないが、やはり使用人かなにかなのだろう。
手際よく目の前にベッド用のテーブルが用意され、病人食の代表であるおかゆが入った皿が置かれる。


…うん。どうでもいいけど、やっぱりお腹は減るんだな。

「おいしい…」
口に入れると、ほのかな甘みと塩気が、そこから染み渡るように流れ込む。
味覚が働いている自分の体が、なんだか滑稽に思えた。


「おはようございます!北島様!」
「ご飯、ちゃんと食べてる?」

うわ…来た…昨日の騒がしい人達だ…

「はい。とってもおいしくちゃあんと頂いております。で、聞いてもいいでしょうか?」
「何?」
「あなた達はどちら様で?ここは何処?」

マヤの問い掛けに、誇らしげに執事が胸を張る。
「柳禅鷹久様です。今年20歳になられる眉目秀麗な御曹司でございます」
「はあ。そうですか」
それで、「坊ちゃま」ってわけなんだな…

「あ、そういえばなんで死のうとなんてしていたの?」
「鷹久様!そういうデリケエトなことはもっとこうオブラアトに包んでお話されては」
「そか、ごめん、話したくなんてないか。詮索されるなんて嫌だよね」
「いいえ、あたしなんかに謝んなくてもいいんです。死のうとしたのだって、たいした理由じゃないんですから」
「じゃあどんな理由?」

直球で会話する人だな…と怯みながらもマヤは彼の勢いに押されるように答えた。

「あたし、失恋したんです」
「へー!奇遇だな、僕も今日、失恋したばかりなんだ」
「は」
「そうかあ。そんな、死にたくなるくらいにその相手のことが好きだったの?」
「ええ…ものすごく…大切な人だったんです」
「僕には分からないなあ…じゃあどうしてそんな相手の重荷になるようなことをしようとしたの?」
「重荷になんかならないですよ。私は彼にとって何の価値もないんですから」
「だってさ、もしも君が死んでいたら、彼はどんなに苦しんだ事だろうね?
それとも彼への当てつけとかなの?あ、でも主治医がね、あれくらいの睡眠薬じゃ、死なないって言ってたよ」
「ええそうですな。よくよく思えば気持ちよさそうに眠っていらっしゃいました」

「ううー~~~もうー~~~大きなお世話ですよ!ほうっておいて欲しかったのに…どうして助けたりなんかしたんですか!」

「うーん?それは僕の生死がかかってたから…かな」

「すみません…私…頭があんまり良くないからそういう謎かけみたいなこと言われてもさっぱりわかんないです。とりあえず、ここにこれ以上お世話になるわけにはいかないので家へ帰ります」

「そんな!お待ち下さい!北島様!」

「様なんてつけなくていいです」

「では北島!帰るなんておっしゃらず、どうかゆっくりされていってください!」

「あ、呼び捨ては失礼かもよ爺や」

「ありがとうございましたっさよならっ」

これ以上こんな現実離れしたとこいたら頭おかしくなりそうだもんっ。

踵をかえそうとしたマヤだったが…

「むんっ」
「ふぐっ!!」
「なっ?うわあああっ、爺っ!?女の子になんてことを!?」

崩れるように膝をついたマヤを慌てて抱きとめ、あわあわと落ち着かない様子で爺とマヤの顔を交互に見比べる。

「き、君っ、北島さん!あわわわわ…ばばばば、馬鹿か!おまえは!見ろ!ぐったりしてぴくりとも動かないじゃないか!」
「大丈夫でございますよ、殺してはおりません。みぞおちにちょいと一発かましただけです」
「かますな!殺してなきゃいいってもんじゃないぞ!ふ、婦女暴行で訴えるぞ!」
「婦女暴行って…私めまだ何もいたしては」
「いいから医者!医者を!!」
「まぁた坊ちゃまの医者医者が始まりましたな…いいからそのままその方をベッドへ運ばせましょう」

爺やはにやりと笑って鷹久を見た。

「北島様にはもうしばらくここにいて頂かなくては。当初の目的を、お忘れではないですかな?ぼっちゃま?」




 

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