忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

光風4








…馬鹿にするのもいい加減にしてください!


(俺が君の事を好きだとでもいうのか、ちびちゃん?随分と自意識過剰じゃないか。君みたいな子供を俺が相手にするとでも思うか?紅天女を手にしたからといって天狗になっているんじゃないのか?)

…あ…あなたなんて…大嫌い!

(ほう、君のその口はついさっき俺を「好き」だと言っていたが?今度は「大嫌い」か。その場の気分で物を言うのは止したほうがいいぞ、チビちゃん。まあ、君が俺をどう思おうが、俺にはどうでもいい事だ)


(俺は…紫織さんと結婚する。君と顔を合わせることももう無いだろう)


「好き」という言葉が、ただ、切なくて苦しい響きにしか感じない。
それなのに、心の中で「好き」を呟き続けている。
苦しくて、たまらないのに。私に、あの人が好きというはずもないのに。




「うっそ、そーんなことないって!好き好き!大ぁい好きだって」



「は…」

不自然な体勢で眠っていたのに気が付いて、マヤははたと周りを見まわした。

静かに走る、一見して高級そうな車の中、向かい側に座っている男が携帯電話を耳に、調子よさげに声をあげている。

そうん、じゃあね、と切られた電話が、またすぐに鳴り出す。
受けては切り、また受けては鳴り。車中に、ひっきりなしに着信の音が響く。

「あの…お忙しい方なんですね。さっきから携帯立て続けに鳴ってますけど」

「ええ、ぼっちゃまはお忙しい方です」

「あー久しぶり。え?そんな事言うの?違うって、そんなはず無いよ、馬鹿だな」

はははは…と軽快に笑う。

「分かったよ…じゃ、来週行くから、うん、必ず」

「??」

…仕事の、話じゃ…ないんだよね…


「あっ!目が覚めたんだね?よかった!うなされてるみたいだから心配してたんだ」

え…心配してしてるようにはぜんぜん見えないくらい…はちきれんばかりにしゃべってたみたいだけど…

「あ?これ?こっちの携帯は仕事用じゃないんだ」

「ああ!プライベートと分けているんですね」

彼女からかな?

まじまじと改めて観察する。
うん、よくよく見れば今流行の俳優さんみたいに甘いマスクで背も高くてスタイルもいいし。
確かに、これで彼女がいないはずないかもっていう整いようだなあ。
だけど仲いいんだあ…だってさっきから数分おきにかかってくるし。

納得の頷きをしている間にも、また着信音が鳴り始める。

今切ったばったかりなのに?あれ?でもそういえば、この人、失恋したばっかりって言ってなかったっけ?

「ああ、ひさしぶり。ん?うん、いいよ」

片手でスケジュール帳を開き、さっと目を通す。

「そうだな、じゃ、15日の夜に。うん、勿論。忘れるわけないでしょ」

「あの…」

もしかして…

電話を切り鷹久は、んふぅーと息をつく。

「みんなこの時間帯しか携帯の電源が入ってないって知ってるからさ、こぞってかけてくるんだよねぇ」

「みんなって…」

うわ…かかって来たのは全部違う人からだったんだ…

「ぼっちゃまは、大変おモテになりますから…」

どこか誇らしげな爺やの言葉に、マヤはくらくらとする頭を抱えずにはいられなかった。

 






 

「へえー北島の家って」
「…なんですか」
「こんなに、せまいんだ」
「ええ!ええ!どーせ、せまいですよ!あなたみたいなひっろーいお屋敷と違ってうちは安いボロアパートですからっ」
「だけど、なんだろうな」
「…なんですか」
「落ち着く感じ♪」
「うちに来てそんなこと言う人あなたくらいですよ!そんなしげしげと部屋の中眺めないで下さい!」
「だって初めて見たんだ、こういう小さな部屋での暮らしって、どんな感じなのかなあ…」
「あのお屋敷で生まれてずっと育ってきたあなたにとっては信じがたいくらい貧しくみえるんでしょうけど…」
「うん、なんか新鮮で面白いなあ。あ、こっちが浴室?」
「あ、ちょっと勝手に覗かないで下さいよ、きゃあ、引き出しあけないでってば!」
「いいなぁ、何をするにもすぐに移動できて合理的だ。俺もこんな部屋に住みたい!」

馬鹿にされていると感じて、マヤはむっとした顔でもう答えもしない。

「爺ー!!ちょっと来てみろ!」
アパートの階段上から、下に止まっている車に向かって叫ぶ。
そういえば、この人って、何をするにも爺、爺、だ。

「爺やさんとは、いつからお二人で暮らしているんですか」
「爺やさん…」
ぽそりと復唱するように呟いた鷹久に、マヤは眉をつり上げる。
「だって、お名前知らないもの!爺やさんとしか呼びようがないじゃないですか!」
「何そんなにむきになってるの?面白い呼び方だな、と単純に思っていただけで悪意はないんんだけど。何か気にさわった?」
「ば、馬鹿にされてるんだと思ったんですっ」
「馬鹿になんかしないよ」
きょとんとして不思議そうな様子の鷹久。
マヤは肩にいれていた力を抜いて、はたと気がついたことに対してげんなりとした。

ああ、やだな…背の高い人、私、苦手だ。
見上げて話してると、なんだかつい虚勢を張ってしまうんだもの。

むっすりと黙り込んでしまったマヤの怒りを解こうと、鷹久はしゃがみこんでマヤをのぞきこみ、もう一度言った。
「馬鹿になんてしないよ、だから機嫌なおしてよーー」
「ねっ?」と首を傾げる、にこにこと毒気のない笑顔に、マヤはふうと息を吐いた。
こういう屈託の無さに女の人たちはまいっちゃうのかしら?
私にはよくわかんないけど…でも腹は立たないかな…

「爺やの名前はね、梶谷というんだ。でも、爺やさんって呼び方、君らしくていいんじゃない?直さなくていいと思うよ」

「鷹久様、そろそろお出にならないとお約束に遅れるのではないですか?ご本命の彼女かどうか知りませんが」

「本命と、本命じゃない彼女がいるんですか…」
「あっ?もしかして、俺の事、とんでもなくだらしない女好きだと思ってる!?」
ショックを受けた素振りの後、彼は困り顔で俯いた。

「みんな真剣だって言っても信じないだろうけど……」

寂しげに眉を寄せその眼に一筋の影を落とす。

「俺…両親も祖父母も早くに亡くしてるから…寂しくてさ、たくさんの人と仲良くしていたいんだ」

「…」

そっか…
家族を失ってから、彼はどれだけ孤独な日々を過ごしたんだろう。
きっと、一人で過ごすのが嫌で、本当に心を癒してくれる女性を探して…
きっと、ずっと…寂しい思いをして…

「そろそろ一人に絞りたいんだけどさ、みんな好きで誰か一人なんて選べないんだよねぇ…」

…るわけじゃないみたい…

思わず潤みかけていたいた目を拭う。

「やっぱり単なる女好き…」
「あ、何、そのおぞましいものを見るような目つきー」

やだなっもう!と、ぷりっと膨れっ面をしてかわいこぶる。…何か、救いようがない。

「さて、ご支度は、整いましたかな?北島様」

「荷物はまとまった?ん、じゃあ行こうかー」

マヤのウエストを抱いて、さりげなくエスコートするあたりも手なれている。

ホントに、大丈夫なんだろうか…この人のお家にお世話になっても…

 「あの、本当に、いいんでしょうか。私…」

マヤの荷物を爺に預けながら、鷹久は力強く頷いた。

「大丈夫!むしろ来てくれないと困るんだ。人助けだと思って頼むよー。必要なものがあったら何でも言ってくれていいからさ」

「その…困るって、何が困るんですか?」

それが不思議でしょうがない。鷹久も爺やも口を揃えて私を恩人だのいてくれないと困るだの。
もしかして誰かと間違えていたりとかしないだろうか…

「それは…いずれ言える時がきたら言わせて?だめかな?」

両手を合わせてマヤを拝み、哀願する。
マヤは投げやりな身の上を思い、頷いた。

「……私は…もう死んだも同じ人間ですから、役に立つというならいくらでもどうぞ」

 「ありがとう!北島のことも悪いようにはしないから安心してて!」

ぱあっと輝く笑顔を見せる鷹久が、マヤにはどうにも理解できなかった。


 

 

拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © mameruku.gejigeji : All rights reserved

「mameruku.gejigeji」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]