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「さすがに…3人は狭くないか?」
「ええ元々は2人用のつもりで作ったものですから…私にはお気を使わずどうぞお二人で」
「大丈夫大丈夫、これだけ大きいんだもん、みんな入れるって!」
「いえ…私は」
「3人じゃないと嫌なんです!ほらほら早く入って入って!」
妙に押しの強いマヤに引きずり込まれて、どういうわけか、かまくらの中で大の大人が3人、膝を抱えてワインを飲むことになってしまった。
聖が二人の為に”イイ感じに二人寄り添えるように大きさを計算して作ったかまくらは通常の2.5倍(大都社比)は大きかったがそれでも大人が3人で過ごすには狭すぎる。
実際、肩と肩がぶつかりかなり身動きしずらい。入り口から中を覗けばその密着ぶりは、かなり滑稽であることだろう。
「ん、おいし~」
気にも止めずにグラスを空けるマヤ。うち男二人はひそひそと内緒話を始める。
「聖・・・」
「分かっております真澄様、頃合を見計らって私は失礼いたしますよ」
「ほわ~ん、なんっかいい気分になってきちゃったろ~」
(さあ、そろそろ私は退出しどきでしょうか)
「あ、どおこいくんれしゅかっ聖しゃんっ。にがしませんよぉ~」
聖の袖口をわっしと掴み、絡むマヤ。据わった目だ。もうすっかりできあがっている。
「聖しゃんも飲んで飲んで」
腕をひいて再び隣に座らせ、グラスを聖の手に無理矢理押し付けてくる。
(いやもう勘弁して下さい…)
先程から聖は真澄の痛いほどの視線を感じている。
(早く二人きりに…!)というオーラがガンガンでているのだ。
「ありゃっ、もう無いのかナ~」
ボトルを逆さまにして覗き込むマヤ。
聖は助かったとばかりに「ワインが無いようですので新しいのをお持ちしますよ」と言い、マヤにはにっこりスマイル、真澄には「それでは・・・(おやりなさいませ)」と目配せをしてかまくらを脱出したのだった。
(やれやれ……)
聖の口からほっと思わず溜息がもれてしまうのも無理はない。
二人がお互いの想いを伝え合ったのはつい先月の事。いまだ聖に依存するクセは二人とも抜け切らないようだ。
長い間犬猿の仲で通してきたのが、急に恋人同士になったのだ。どちらも戸惑いを拭いきれないのだろう。
(それにしても…学生の恋愛じゃないんですから…)
初キスをかまくらで…という真澄のもくろみが成功する事を願いつつ、笑みを浮かべながら一日の仕事を終えた聖は自分の恋人の待つ部屋へと帰っていったのだった。
「マヤ…」
二人きりになった真澄はここぞとばかりにマヤににじり寄る。
「ん~?」
なにがそんなに楽しいのか上機嫌でにまにまとしていたマヤが、吐息の温かさを感じられるほどに近付いた真澄の顔をみるなり、目をまるくして素っ頓狂な声をあげる。「何を言ってるんだか…いつの間にそんなに飲んだんだ君は。おい、ちびちゃん、もう部屋に戻った方がいいんじゃないのか?」
「んふ~うふふふ、そうかぁこれが本物のはやみさ~んだぁ~、つっかまえたぁ~」
「マ・・・」
突然勢いよく飛びつかれて、真澄はマヤもろとも後ろにひっくり返り、かまくらの壁に頭を打ち付ける。痛い。かなり痛い。聖が頑丈に作り上げたかまくらは内部の保温で適度に溶け、氷のようになって強度を増しているからよけいに痛い。「あとのふたりはぁ…う~ん…むにゅむにゅ…」
胸の上で何かごにょごにょ言っているマヤを、真澄が頭をさすりながら見ると、すでに、すやすやと気持ち良さそうに眠りに入っている…。
「…マヤ…」
子供っぽい彼女に呆れつつも、密着するマヤの体から彼女の香りが鼻孔を擽ると、真澄の胸はドキドキしてくる。
眠るマヤを胸に抱え込む体勢に、社務所での辛かった夜が思い出される。
もっと素直になっていれば、あの時に彼女は自分のものとなっていたのかもしれない。
マヤ・・・
あの日をなぞるように、真澄は無邪気に眠っているマヤの唇に引き寄せられるように口付ける。
「あ~ママ~!中でだれかちゅ~してる!ちゅ~してるよ~!」
その声に真澄がはっとして入り口を見ると、小さな男の子がこちらを指差して叫んでいた。
即座に「こ、これっ!」と母親らしき手が子供の襟首をつかんで連れ去る。
きまりが悪くなりながら、真澄はマヤの唇を指でなぞって溜息をついた。
俺はまた眠ってるマヤにキスしていたのか。
いや、もう想いは伝えてあるんだからきちんと起こしてからするべきだろう。
とにかく、起こして部屋に連れ帰らなければ。
真澄はマヤの肩を揺さぶると耳元に向かって「おい、マヤ、起きるんだ」
瞬間、「わっ」と飛び上がって目覚めるも、マヤは暢気にも「あ、真澄さん」と酔いの残ったとろんとした目で真澄を見る。
「真澄さん、じゃないだろ、こんな所で寝るんじゃない、風邪をひくぞ」
「ん、あれ、聖さんは?」
「聖、聖って、君は聖がいないと駄目なのか?」
ちょっと苛立つ真澄に対して、「え、そういうわけじゃなくて…」と、言い篭るマヤ。
だって…なんか二人きりって緊張しちゃうんだもん…。
ほら、真澄さんの目がこんな風に見るから…戸惑っちゃって…。
「マヤ…俺と二人きりは嫌なのか?」
「え…」
「俺は、君にと二人でしたいことが沢山あるんだ(なにとは言わないが)」
「速水さん…私…私も、速水さんと二人でしたいことたくさんあるんです(雪だるまづくりとか)」
「っ、マヤ…!」
初キスはかまくらの中…という真澄のもくろみは何とか達成された模様であるが、微妙に二人の意図は食い違っているのであった。
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