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可愛く




「久しぶりの学校…楽しかったぁ」

「じゃあ、またね!北島さん!」

「うん!また!また宿題うつさせてね!」

「もうー少しは自分でやらなきゃだめよー」

「あはっ、じゃあ、今度は一緒にやれたらいいな」

「そうね、あなた様のスケジュールが合えばね」

「ははーいつももうしわけありませんー」

おどけるマヤに、あははは…と笑って手を振る友達。
彼女らに手を振り返して、マヤは元気よく学生カバンを振り回して下校する。

と、ここまでは、以前と変わらなかった。


校門を出たところで、待ち構えていた記者達に取り囲まれてしまったのだ。

フラッシュが遠慮なくたかれ、マヤの目が++字に眩む。

「沙都子ちゃん!おかえり!待ってたんだよー」
「制服姿も可愛いねぇ、よく似合ってるねぇ」
「いつもこのくらいの時間に帰るの?」
「部活は、やっぱり、演劇部?」

うわ、なに、この人達…!

「あ、あたし、沙都子じゃありません!しっ、失礼します…!」

振り切って逃げようとするマヤだったが、その周りを覆うかのようにして記者達がついてくる。

「ごめんごめん、そのイメージが強いからつい」
「北島さん、学生生活はどんな感じ?」
「好きな先生はいる?好きな男の子は?」
「仕事してるときと学校くるのとでは、どっちが楽しいですか?!」

矢継ぎ早に質問されて、マヤはまごまごする。

「え、ど、どんな感じって、どっちがって、あの、別に普通っていうか」

「やっぱり、授業中もきりっとしてるんでしょう?」
「沙都子だったら、きっと全教科百点だとおもいますが、マヤちゃんの成績はどう?」
「テスト勉強はどうしてるの?やっぱり塾で?」

「その、あのドラマの役とあたしは全然違うっていうか、正反対っていう感じなので…」

この人たち、ずっとついてくるつもりかしら、ど、どうしよ…

「あの、じゃあ、すみません!あたし、もう帰んないと!」

ぺこりとおじぎをすると、くるりと方向転換して一気に走り出した

「あー沙都子ちゃん!」
「まって、好きな男の子がいるかいないかだけでも」
「明日も学校へ来る?」「今後のドラマについて一言!」

うわ、お、追いかけてくる~~!!

「沙都子ちゃーん」
「北島さーん」


ああーーもう!やめてーーー!!


猛ダッシュをかけてもそれほど速くないマヤの足。
曲がり角を曲がって曲がって、やっと引き離したと思ったそのとき。
黒塗りの大きな車が、すっとマヤの横につけられた。

「やあ、チビちゃん、奇遇だな」

「(げっ…)は、速水さん…」

一難去ってまた一難とはこのことだ。

「ずいぶんと、もてはやされているようだが…スター気取りになるのはだいぶ早いんじゃないか?」

「スター気取りなんて!そんなこと思ってないです!」

それよりあたし、今それどころじゃないんですけど!

「あ、いたいた!沙都子ちゃーん」

マヤは記者がこちらへ走ってくるのを気にして、そわそわする。

「ふっ、そうか?ちょうどよかった、君に聞きたいことがあったんだ」

「あ、あたしに、ですか?で、でも今、そんな状況じゃないんです!」

逃げる体勢で、足踏みをする。

速水さんなんかが、あたしに何を聞きたいっていうんだろ。

それが、ちょっと、気になる。けど…

「あー追いつかれちゃう!じゃ、さよならっ、速水さん」

すると真澄は、車から降りてきてマヤの腕を掴んで言った。

「ここで話すのもなんだから、車に乗るといい。家まで送ろう」

「え…い、いいですよ、すぐ近くだし」

「家までずっと記者に追い回されたいか?いいから乗れ、チビちゃん」

結局、有無を言わさず、乗せられてしまった。





「高校生の女の子に渡すプレゼントを考えているんだが、分からなくてね。それで、君に選んでもらえないかと思っているんだが」

「そんなの、私じゃなくったってもっと他に適役の人がいるんじゃないですか?」

「非常に残念ながら、俺には高校生の知り合いは君くらいしかいなくてね」

「は、はあ…」

なんか、すっごく、うさんくさい。

「もし…時間があればだが、よければこれから少し買物に付き合ってくれないか?」

「い、今からですか?!」

「ああ。何か予定があるのか?」

「そりゃ、別に予定ないですけど」

「それなら、このまま行こう。俺もそうそう時間は空けられないからな」

「え…ええー?!」









「…速水さん」

「なんだ?」

「あの、私と同い年って言ってましたよね?その、贈り物をする相手」

「そうだが?」

学生服姿で入るには、気後れしてしまうような店構えだ。

「高校生には、ちょっと高価すぎるんじゃないでしょうか…」

「そうか?喜ぶと思うが?」

いったい、どんな知り合いなんだろ。


しゃれっ気がないマヤには、アクセサリーのことはよく分からない。

だいたい、なんで、あたしに?!明らかに人選ミスだと思うんだけど…!


「チビちゃんだったら、どれを選ぶ?」

「え?えーと…」

急に言われても、困ってしまう。

きらきらと光り輝く指輪やネックレス、そして値札の額の大きさに、目がチカチカしてくる。

「これなんかは、どうだ?」

「え…わ、あのっ」

真澄の指し示した商品を、心得たように店員がマヤの首に付けて鏡を見せてくれた、が…


うっ、似合わない…!

「速水さん…」

「なんだ?気に入らないのか?」

「それ以前の話だと思います…あたし今制服だし、こういうの似合わないから」

「ふーん?そうか…それなら服装も変えてみるか?」

「……は?…え?ちょ、ちょっと、何処へ連れて行く気なんですか?!」











「……速水さん」

「なんだ?」

「あの…まさかとは思いますけど、あたしを何のために連れてきたか忘れてやしないでしょうね?」

「ちゃんと最初に言ったろう」

「そうです!贈り物を選べって言われて連れてこられたんです!」

「ああ、そうだが?」

「それなのにさっきからずっと…な、なんで、私に買ってるんです?」

「なんで、と言われてもな」

「だって、サイズを合わせたり、私が気になって手にとったものは全部買ってるみたいだし」

そんなにたくさん贈られたら驚かれちゃうと思うけど…

「だから、俺には高校生の知り合いは君くらいしかいと言ったろう?」

「……………えっ」


じゃ、じゃあ、最初から、あたしへのプレゼントを選びにきてたの?!

ひくりと口元がゆがむ。

な、なんでまた、あたしに…?


「頑張っている褒美だ。明日からは、送り迎えの車をよこそう。マスコミがいては落ち着いて登下校もできんだろうからな」

「うそっ…!い、いりませんよ、あんなにたくさん!」

「もう遅い。買ってしまったからな」

「やだっ、あなたから何かもらったら、見返りが怖いもの、絶対いらない!いらないですー!」

「褒美だと言っているだろう。だが、見返り、か…」

面白そうにマヤを見て、真澄はふっと笑って言った。

「チビちゃん、それなら見返りとしてもう少し俺に付き合ってもらおう」

「えっ、このうえ、どこへ付き合えっていうんですか」

迷惑そうなマヤの腕をひっぱって、真澄は早足で歩きだした。








連れ回される事に抵抗が薄れて、手をひかれて辿り着いたところは。

…ここって、写真屋さん?

「うわ…」

なんだか、昔ながらって感じ…

飾られている写真も、どこか年代を感じる。

「おや、ぼっちゃん!久しぶりだねぇ」

「ああ、いつ以来かな」

「あれま、可愛い娘さんだね、姪っ子さんかなにかかい?」

「まあ、そんなところだ」

「ちょっ…いつからあたしが速水さんの姪に…っもがっ」

「それで、このチビちゃんの写真を撮ってもらいたいんだが」

「ああ、分かりました。じゃあ準備するからちょっと待ってて下さいよ」

店主が奥にひっこんでしまうと、マヤは口を尖らせて小声で言った。

「…もしかして、さっき買った服とか着て撮れっていうんですか?」

もしかして、贈り物の覚書がわり?!

「いや、そのままでいい」

「えっ…」

制服のまんま?!ますます、わけが、分からないんだけど…

「君の母親に送ってやるといい。持っていないんじゃないか?君の制服姿の写真」

「写真を…母さんに…?」

ん?!でも、それのどこが見返り?よけい速水さんのお世話になっちゃうじゃない。

でも…

送ったら、母さん、喜んで、くれるかな…








「はい!撮りますよぉー」

緊張することもなく、ゆったりとした時間の中で撮影が始まる。

「もうちょっと、こっち見て…そうそう、はい笑って」

写真という空間を越えて、マヤは心の中で呼びかけ続ける。

親不孝な子で、ごめんね、母さん…
母さん、あたし…元気で、やってるのよ。母さんはどうしてる?
あたし、母さんに、会いたい…

「ああ、すごくいい表情で撮れましたよ。誰か大事な人のこと、考えていたんでしょう」

「え、そ、そうですか?それは、どうも…」






「ほれ、可愛く撮れていますよ」

「撮る人の腕がいいんだな」

マヤの横から覗き見た真澄がすかさずそんなことを言ってマヤをからかう。

「むうっ…素直に褒めるとかできないんですか、速水さんは!」

むっとするマヤと真澄を見比べ、店主はぽんと手を打った。

「そうだ、ご一緒に写ってはいかがです?」

「は?」

「なかなか姪っ子さんと一緒に写真なんて撮る機会はないでしょう。さあさあ、ぼっちゃん、そこに並んで」

「え」

二人一緒に押し出されて、肩が真澄にぶつかる。

「ほい、こっちむいて。お二人とも、そんな仏頂面しないで、ほれ、もっと笑って笑って!」

笑えっていったって、ゲジゲジの横で笑顔なんてできない…!

「もっと、可愛く!ほれ、ぼっちゃんも、もっと可愛く笑って!」

それを聞いたマヤがぶはっとふきだす。

速水さんに向かって、可愛くだなんて!

「チビちゃん、何がそんなに可笑しい?」

「だって…っ可愛い速水さんなんて、想像できない…!」

あはははは!と大口をあけて笑い出すマヤ。

「失礼だな、君は。俺にだって、可愛い頃はあったんだぞ」

「そうですとも、それはそれは可愛らしかったんですから」

「え!速水さん、ここで小さい頃に撮ってもらってたんですか?それって、見せて頂くことってできるんでしょうか」

「残念ながら、ここには残っていないんですよ」

「なあんだ、つまんない」

「なんだチビちゃん、見たかったのか?」

「そりゃそうですよ!可愛い速水さんなんて、すっごく貴重じゃないですか」

「同じだろ、ここにいる俺と変わらんぞ、同一人物なんだからな」

「違うー!絶対、違うと思います!」


そんな調子で、店主が現像をしている間も、二人はずっと言い合いをしていたようで。




「まあ、仲良くやってくださいよ」

大きな口を開けて可愛く笑ったマヤと真澄の写真を、店主は微笑ましく見つめた。

ぼっちゃんも、こんなふうに笑った顔ができるんですねぇ。

子供の頃の寂しそうな顔ばかり撮ってきたから、なんだか嬉しいですなぁ…











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